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サム・ハロップMWが「人生で最高の食事」と感激、「にい留」の天ぷらとワイン

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 世界をまたにかけるワインコンサルタントのサム・ハロップが、問わず語りにもらした。
 「生れてこのかた味わった最高の食事だ」と。
 名古屋の「天冨良 にい留」は、天ぷらの枠を軽々と超えていた。極太のアスパラガスや銀杏、巨大なアワビに厚岸のカキ。食材が木箱に入った段階から、オーラを放っていた。主人の新留修司さんは、ち密な火通しの天ぷらをおそるべきスピードで揚げ続け、お造りも織り交ぜながら、山海の豊穣の秋を描いて見せた。二十数品のお任せコースが生む余韻の長さと深さは、数日間で消えるものではない。
 一級の料理は国を超える。ニュージーランドのワインと酒のプロの魂に響いたように、私の心にも深く染み入った。この10年間で、これほどよく考えられて、バランスのとれた日本料理のコースを食べた記憶は少ない。かろうじて京味くらいだろうか。10席のカウンターに集まったのは、サムが尊敬する「根知男山」を造る渡辺吉樹さん、サムを師匠に抱く大橋健一MWらのトッププロたち。東海地方の業務用総合卸「マルト水谷」の梶田知社長のはからいで、貴重な席に座ることができた。
 予約困難なこの天ぷらやさん。大橋MWが日本でコンサルタントを務める数少ない飲食店である。彼は5回は食事しないとコンサルはしない。彼がそろえる酒とワインのリストは、他店のソムリエが真似したくなるくらい。透明感があり、天ぷらと相性のよいベスト・オブ・ザ・ベストのオンパレード。私は熟成したシャンパーニュを2本持参し、アペリティフとして、ブルゴーニュのグラスで楽しんだ。
 「シャンパーニュ ジャック・セロス VO」(Champagne Jacque Selosse VO)は2009年4月のデゴルジュマン。VOの瓶内熟成は7、8年間だから2002から2000あたりがベースだろう。酸化したニュアンスはあるが、オークと統合されていて、炒ったナッツとブラウンバターのまろやかな風味が広がる。エキゾチックで、深みが豊か。フィニッシュはほろ苦みをはらみ、ミネラル感が長く伸びる。予想以上にフレッシュ。サム・ハロップMWはアルデヒドの存在を指摘しながら、楽しんでいるようだった。95点。
 「シャンパーニュ ジャック・セロス ロゼ」(Champagne Jacque Selosse Rose)は2009年4月のデゴルジュマン。キュラソー、マーマレードのパウンドケーキ、まろやかなフェノリックスが生き生きした酸ときれいに溶け合って、若々しさを感じさせる。ダシ的なうまみにあふれ、チョーキーなミネラル感が、長く続くフィニッシュに絡みついている。エグリ・ウーリエのピノ・ノワールがもたらすタンニンと骨組みによって、バランスのとれたフレッシュ感が生まれている。酸化的なスタイルが特色のセロスだが、同期間の熟成で比べるとロゼの方がタンニンがある分、熟成力がある。96点。
 VOのエキゾチックな風味は甘みのあるスミイカの天ぷらと、ほろ苦みはししゃもを引き立てた。ロゼは何と言っても松茸と調和した。
 大橋MWが選んだ白ワインは、あらゆる和食店が手本にしたくなるだろう顔ぶれ。サムがワイヘケ島で造る「セダリオン シャルドネ アラエ・ヴィンヤード 2014」(Cedalion Chardonnay Arae Vineyard 2014)は細心のオーク使いによって、ほのかなヴァニラとフリンティなニュアンス、緊張感があり精妙。グレープフルーツの甘酸っぱさと濡れた石、塩っぽいミネラル感に縁どられ、焦点があっている。7200円。93点。
 「リチャード・カーショウ・ワインズ シャルドネ エルギン クローナル・セレクション 2014」(Richard Kershaw Wines Chardonnay Elgin Clonal Selection 2014)もまた、マスター・オブ・ワインが造るワイン。40%の新樽がやや強く出ているが、マンゴやバターコーンの香りがゴージャスに広がる。凝縮された果実が中心に居座っているが、豊かな酸が息づいている引き締まったスタイル。ヨード感を秘めながらクリーミィな生うにとぴったりだった。5500円。92点。
 ただ、料理との相性の点で抜群だったのは「根知 日ノ詰 五百万石 特等米 2016」。フローラルで、ジャスミン、オレンジの花、コクがありながら、フレッシュ感も備えていて、フィニッシュは透明感があって長く、塩みがほのかに広がる。アワビ、カキなど、滋味とうまみが詰まった天ぷらには万能の相性だった。醸造よりも畑仕事に生きる渡辺さんの努力が、ピュアな味ワインを生んでいるように思える。世界のワインと肩を並べる存在だということを改めて感じた。92点。
 新留さんが全国の生産者とネットワークを築いて仕入れる食材にかける情熱と手練の技にも、同じ志を感じる。東京からわざわざ来る常連客がいるものもよくわかる。
左から、ししゃも、ボタンエビ、アマダイ
左から、厚岸のカキ、アワビ、松茸
左から、ウニ、アスパラガス、かき揚げ丼
左から、渡辺吉樹社長、サム・ハロップMW、新留修司さん、大橋健一MW、梶田知社長

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