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「神の雫」原作者の樹林伸、小説「東京ワイン会ピープル」を刊行

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 人気ワインコミック「神の雫」の原作者、樹林伸さんの小説「東京ワイン会ピープル」が今日15日、発売される。
 ワインの売れ行きを左右するメディアは、評論家、テレビ、雑誌、ウェブマガジン、SNSなど数多いが、「神の雫」は漫画というジャンルで世界的なインフルエンサーになった珍しい例だ。よく練られたセリフとそれに合わせた絵というミニマルな表現形式で、ワインの官能性と生産者情報を理屈ではなく、情感的な表現に軸足を置いて、直感的に伝えた。そこに、すそ野の広いワイン愛好家をつかまえる新しさがあった。わかりやすさは言語を超えて、韓国や本場フランスでも翻訳されて計1000万部を売った理由だろう。
 本作は5つの短編の連作集。主人公はワイン初心者の26歳のOL。ベンチャー企業の旗手と出会い、ワイン会に参加するうちに、もって生まれた感性と言葉で、ワインの階段を上がっていく。5編で取り上げられるのは、DRCエシェゾー2009年、シャトー・マルゴー1981年、ドン・ペリニヨン・ロゼ2004年、シャトー・ディケム1910年、ドメーヌ・フルーロ・ラローズ モンラッシェ1991年。物語の構成が巧みで、見栄や欲望が出がちなワイン会という場に、キャラクターのたった人物を設定し、ワインが持つ個性や物語性をくっきりと浮かび上がらせている。
 漫画にはない小説の強みは、細やかな感情表現に踏み込んで、長い息継ぎで物語を語れることにある。本作はその特性を理解したうえで、人物造形を掘り下げて、時代の空気を描く中に、ワインの情報をなめらかにまぶしている。ワインの比ゆ的な表現は筆者の得意とするところだが、本作にはワインが映し出す人間模様も織り込まれている。人間の本質を鏡のように映すのもまたワインの面白さである。ワイン会によく参加する愛好家は、登場する人物や起きる出来事にリアルな既視感を覚えるだろう。よくできたドラマを見るような映像喚起力があり、しみじみとした読後感を残す。
 1555円(税別)。文藝春秋。

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