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若きソムリエよパリを目指せ パリでソムリエをして思うこと

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 フランスに来て15年になる。今回は私のプロフィールを通して、フランスにおけるソムリエという職業について書いてみようと思う。

 私はソムリエの資格を持っていない。フランスで出会う日本人ソムリエは、日本でそれなりのキャリアを積んだ後、この国にやってくる事が多い。私はまったく逆で、フランスの歴史・文化に惹かれてこの国にやってきたので、来た当時はワインの知識は全く持ち合わせていなかった。そんな私が、ソムリエを志したのは、『ルカ・キャルトン』という当時3つ星のレストランにて出会った衝撃的なワインと料理のマリアージュがきっかけだった。
 何気なくアペリティフで頼んだモーゼルのリースリングと、それに合わされたアミューズブーシュのグリーンピースのヴルーテの、すべて計算された魔法のような相性。1つのワインが、ただ美味しいだけでなく、何か1つの料理と合わさった時に、その価値を何倍にも引き上げるということを知った。
 その後、私は『サンドランス』と名を変えた、このレストランで働くことになった。アラン・サンドランス・シェフは、数多くのスペシャリテを生み出したが、彼の真骨頂はやはり料理とワインのマリアージュ。1つの皿を完成させると、その皿にあったグラスワインを協議して決める。
 食材の旬もどんどん変わって行くので、料理に少しでも変化がある度にワインを変える。だからシェフとシェフ・ソムリエはしょっちゅうワインとの相性を試していた。どんなワインにもそれ固有の価値があり、それぞれワインの持つ存在価値を探す楽しみを、私はここで学んだ。
 昨今、日本人シェフの店がフランスで増えつつある。2002年に平松宏之シェフの『ひらまつ』がミシュラン・ガイドで1つ星をとって以降、日本人のオーナーシェフの店がフランス各地で増えた。今ではパリだけで30軒以上の日本人シェフによるフランス料理の店があり、その中でも10軒は星付きレストランである。
 さらに、大抵の高級レストランでは、日本人の料理人が働き、いずれも重要な役職についている。フランス中のレストランを日本人が裏で支えていることは、フランス人も次第に認めるようになってきた。日本人は繊細な舌を持ち、感性が優れていると言われるが、何よりもその勤勉さ、丁寧さを評価され、さらに労働時間の長さや、給料の低さにも文句を言わないというのが買われている。
 法律で従業員が守られているために、フランス人労働者のモチベーションは全体に低い。だからそこに外国人が入り込む余地がある。苦しい条件を越えてビザを獲得しているのだから、フランス人に負けないように努力する。言葉で勝てないから、それ以外では負けないようにする。実際、日本人はテクニックやマテリアルにおいてフランス人よりも優れているが、食材の面で不利であるという。だからこそ、そういったしっかりとした技術をもった日本人料理人が、豊富なフレンチ食材のある場所において料理を作るとき、その真価が発揮されるのだ。
 私は2014年、日本人シェフのレストラン・「ネージュ・デテ」(Neige d’ete)の開店時に、シェフ・ソムリエとして入った。サービスの方針、ワインの選択を任されたので、私はかつての『サンドランス』と同じく、料理とワインのマリアージュを追求できるスタイルの店作りを行った。高級ワインだけにとらわれないで、なるべく多くの産地から、個性的なワインをセレクトした。3つ星レストラン「ル・サンク」で14年にわたり研鑽を積んだ西シェフのもと、プロ意識の高い日本人スタッフが揃ったこともあり、2016年に一つ星を獲得した。
 パリでソムリエをする大変さ。それは、まず私が日本人なので、初見で信用されないことである。顔を見て、フランス人から、キミはワインについて何を知っているのか、キミはボルドーとブルゴーニュの違いわかってるのか?という目で見られる。しかしながら、ワインへの情熱を語り、確かな知識を開陳すれば、そういった垣根は取り除かれる。色々なワインを飲んで来た愛好家の人にも、何か今までに飲んだことのないような味わいやマリアージュを経験してもらえれば、そこが評価へとつながる。
 ある日、フランス人ソムリエが、私がオススメしたフィリップ・アリエのシノンとシャトーブリアンの料理の間の繊細な相性に気づいてくれたことがあった。それは牛肉そのものよりも、盛り合わせとして添えられたビーツの味の主張に合わせた組み合わせだったのだが、ワインの理解とは、言語や国籍を越えて共感されるものであると感じた。
 さきほども書いたように、今、フランスでは、空前の日本人シェフレストラン・ブーム。いまだそういった店は増え続けていて、衰える気配がない。そういったレストランでも働き易い、日本人ホールスタッフを求める声をよく聞く。なぜもっと多くの日本人の若者がフランスに来ないのかと思う。
 これは、多くの若い日本人ソムリエにとって、キャリアアップのチャンスである。給料は安いが、ワインの勉強に当てる時間はとても長く、試飲会の機会などは多いし、何よりも生産地にいつでも行ける。ワイン生産者と知り合いになる機会がとても多い。言葉の問題や、金銭的な悩み、未開の場所に移るという不安はあるかもしれないが、「チャンス」というものは、自分からそれを得ようと踏み出さなければ、決して得られない。多くの若い日本人が、もっとフランスにやってくることを願うばかりだ。
Sommelier in Vinyard
ブルゴーニュとアルザスでもレストランとワイナリーで仕事をした。給料は少なかったが、他では決して得られない貴重な体験をした
かつて『ルカ・キャルトン』と呼ばれ、私が初めてワインと料理の相性、ソムリエの仕事に感銘を受けたレストラン『サンドランス』。このレストランで徹底していたことは、料理とワインのペアリングに対する、模索・実践・検証の繰り返し
初めてコミ・ソムリエというポジションで働いた三ツ星レストラン『ギィ・サヴォワ』。スタッフのモチベーションが高く、高級サーヴィスというものについて学んだ
 今、パリでブレイクしつつあるのが、『日本酒』。長くハードリカーと勘違いされてきたが、ようやく食中酒として認知されつつある。私のレストランで、チーズと合わせた相性が大変喜ばれている

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