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パーカーがプリムールから"引退”

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ヴィノテーク2015年4月号掲載

 ボルドーワインが変わるかもしれない。アメリカの評論家ロバート・パーカーが、プリムールの評価から退く。ボルドーの価格や売れ行きを左右する「ワインの帝王」の一線からの"引退”は、予想よりもずいぶんと早い。世界のワインメディアやトレードがその影響を見守っている。
 ザ・ワイン・アドヴォケイト(TWA)が開くオーゾンヌやシャプティエなどの「マスター・クラス」のために訪れたロンドンで、記者会見して発表した。プリムール評価は、ブルゴーニュを担当するニール・マーティンが引き継ぐ。パーカーは引退するわけではなく、過去のヴィンテージの評価などを行う。4月に行われる2014年ヴィンテージのプリムール試飲から、マーティンが担当し、パーカーは瓶詰めされた2012ボルドーの評価などを発表する計画。
 エリン・マッコイさんの評伝本「ワインの帝王 ロバート・パーカー」で、パーカーは「あらゆる分野、あらゆる時代を通じて、最も影響力のある評論家」と評された。その力の源がプリムールだった。1982の潜在力を見抜いて、評論家としての評価を確立した。樽からの試飲でつけるパーカーポイント(PP)は、ネゴシアンの値付けやワインの売れ行きを左右した。ワイン・アドヴォケイトで発表されるのは4月末。インターネット時代に入ってから、デカンターやワイン・スペクテーターなどの主要誌、ミシェル・ベタンヌ、ジャンシス・ロビンソンMWら有名評論家が素早く評価を発表するようになったが、PPほどの影響力はない。消費者はもちろん、ワイン投資でプリムールや過去のヴィンテージを購入する際も、PPが基準となっている。
 ワインの評論家とジャーナリスはどこが違うのか?TWAを独立したアントニオ・ガッローニが主宰する有料サイト「ヴィノス」が昨年末、歴史のより長い有料サイト「インターナショナル・ワイン・セラーズ」(IWC)を買収した際に、そんな議論がイギリスの評論家の間で交わされた。人気ウェブサイト「ワイン・アノラック」を主宰するジェイミー・グッドの定義が明快だ。ワイン評論家はグラスの中に興味があり、得点評価が主な仕事。ワインジャーナリストはワインの背景にある物語に惹かれ、産地を訪問して、カーヴだけでなく幅広く取材をする。パーカーは得点評価に重点を置いた評論家の象徴だった。
 日本のワインショップやインポーターは、ワイン・アドヴォケートがつけた得点は何でも「PP」と呼んで宣伝材料に使うが、実際にパーカーが評価しているのは、ボルドー、カリフォルニア北部、ヴァリューワインなどに限られている。マーティンが2014プリムールからつけるポイントをどう呼ぶかは別として、パーカーポイントの消滅は、ボルドーの売れ行きやワイン造りにも影響する可能性がある。
 イギリスの王立経済会議は「パーカーポイントの存在は、ボルドーワインの価格を15%押し上げる効果がある」と発表した。ボルドーバブルは2005から始まり、貪欲な中国市場によって加速し、優良な作柄の連続した2009と2010で最高潮に達した。狂騰とも言える高額なワイン売買の価値基準がPPだった。2011から2013までは、平均から平均以下の作柄が続き、市場は低迷している。バブル時より下がったとはいえ、値下げが不十分で、ネゴシアンは在庫を抱えている。ロンドンのワイン投資ファンドも苦しみ、破たんする企業も出てきた。2014は良好な作柄と期待されているが、パーカーの退場はマイナス要因に働く。
 一方、パーカーの評論は価格だけでなく、ワインの品質も押し上げた。新樽での熟成、完熟してからの収穫、厳しい選別などを訴えて、シャトーもそれに従ったが、反面でワインの画一化も招いた。パーカーが凝縮した果実味の豊かなワインを好むため、迎合した造りをするシャトーが増えた。PPが低いと、売れ行きが鈍るから、これは当然の帰結だった。猛暑で高濃度になったシャトー・パヴィ2003をめぐって、パーカーとジャンシス・ロビンソンMWの間で論争が展開されたこともあったが、市場は結局、パーカーを支持した。
 日本人妻を持つマーティンの味覚は、パーカーより柔軟性がある。ブルゴーニュの評価を見ても明確だ。新産地やビオディナミのワインも受け入れている。ボルドーはソーテルヌとポムロールに強いが、メドックのワインを正面から評価する時に、市場がどのように受け止めるだろうか。
 TWAのチームは、リサ・ペロッティ・ブラウン編集長以下全員が、記者会見に出席した。ワイントレードの中心地での会見で、TWAはパーカーだけではないというチーム力を訴える狙いがあったに違いない。有料ワインサイトは現在、TWA、ヴィノス、ロビンソンMWのパープル・ページの3つどもえの戦いとなっている。ジャーナリスティックなパープル・ページは別として、TWAとヴィノスの勢力図がどう変わるかも興味深い。パーカーがかつて後継者と見なしていたアントニオ・ガッローニの試飲能力は、マーティンに勝るとも劣らない。ヴィノスは動画インタビューなども取り入れ、コンテンツの更新もスピーディだ。パーカーというアイコンを失ったTWAがどのように影響力を保つのか。
 2015年4月から始まるプリムール商戦で、一つの答えが出るだろう。

肩書きは当時のまま。

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