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シャンパーニュ×天ぷら、フレンチを修めたソムリエ市村暢央さんが挑む「シャンぷら」

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 3つ星「カンテサンス」でフレンチの王道を歩み、「ワカヌイ・グリル・ダイニング」でニュージーランド料理を開拓したソムリエの市村暢央さんが、和食の世界に降り立った。天ぷら、鮨、鉄板焼を世界に展開する「銀座おのでら」のシェフソムリエとして、天ぷらとシャンパーニュのペアリングに力を入れている。

 銀座おのでらは、銀座に天ぷら、鮨、鉄板焼の店を有するが、パリ、ロンドン、ニューヨーク、ロサンゼルス、ハワイ、上海にも展開している。市村さんは今年2月に入社。銀座の店の飲料を統括するだけでなく、拠点はパリに構えて、3種の料理を世界展開していく司令塔の役割も果たす。

 フレンチでは抜群のマリアージュを披露した市村さんが力を入れているのが、シャンパーニュを天ぷらにあわせる「シャンぷら」。料理人も交えて、日本酒、白ワインを様々なタネに合わせる実験を繰り返し、4つのタイプのシャンパーニュに絞り込み、バイ・ザ・グラスで供する。

「アンリオ ブリュット・スーヴェラン」(ピノ・ノワール50%、シャルドネ50%)
「ル・ブラン・セルヴネイ メロディー・アン・セー グラン・クリュ」(シャルドネ100%)
「エティエンヌ・ルフェーヴル ブラン・ド・ノワール グラン・クリュ」
「シャルトーニュ・タイエ キュヴェ・サンタンヌ ブリュット」(ピノ・ノワール50%、シャルドネ50%)

 海老にはアンリオ、銀杏、ハマグリにはブラン・ド・ブラン、ウニやハスにはブラン・ド・ノワール、シイタケやキス、かき揚げ丼にはシャルトーニュ・タイエを合わせた。生の貝類はシャンパーニュと合わせにくいが、ハマグリの天ぷらは油でコーティングすることでほのかな甘みを引き立てる。大葉で包んで揚げたウニは、ブラン・ド・ノワールのスパイシーさが合う。シャルトーニュ・タイエの酵母の香りは、お新香の酸味と合った。タネによって異なる音階のハーモニーを奏で、よく練り上げられていることがわかる。

 「シャンパーニュによってグラスも変えて、シャルトーニュ・タイエは少しぬるめで注ぐなど、個性を引き出すよう配慮しています。魚介とシャンパーニュを合わせると生臭さが出がちですが、油で包み込むことで調和が生まれる。天ぷらのクリスピー感も、シャンパーニュのクリスピーなタッチと合います」

 太白胡麻油100%で揚げる天ぷらはキレがいい。塩も魚介に向く天然塩と、昆布、シイタケ、黒糖などを混ぜた野菜などに向く茶色の塩を用意している。ほろ苦い稚鮎のようにどうしてもシャンパーニュと合いにくいタネには、ビールを「お店からのサービスです」と小さなグラスで出す細やかな気配りもある。

 ソムリエには、コンクールを目指すタイプや、客を楽しませるエンターテイナーなど様々なタイプがいるが、市村さんは私の知る限り、科学的な知識と蓄積に基づいて、最も適切な料理と飲料の組み合わせを提案できるソムリエの1人だ。感覚ではなく、論理的な裏付けが伴っている。

 シャンぷらに挑もうと思ったきっかけは、2012年にメルシャン商品開発研究所が発表した、魚介料理とワインを合わせて生じる「生臭み」のメカニズム。ワインに含まれる鉄イオンが魚介類の過酸化脂質と反応して、生臭くなるという研究に触発された。オリと接触させるスパークリングワインや、オリーブオイルなどの油脂類、レモンなどの酸を調理に使うことで、この生臭さが避けられることから、時にはレモン類をかける天ぷらに可能性があるのではないかと、着想した。

 1993年から97年までフランスで修行したベースを基に、日本のフレンチの最高峰「カンテサンス」を支えた。日本料理という新しいフィールドでも、持ち前の知的好奇心と探究心を発揮して、示唆に富むペアリングを確立しようとしている。岸田周三シェフから教わった「昨日より良くなっていなければ劣化しているのと同じ」という教訓を体現している。

 寿司が世界で人気を集めていると言っても、経験的に言って、生魚に慣れない外国のワイン生産者は多い。油で揚げる料理は各国にあるから、天ぷらはこれから世界に広がる可能性を秘めている。ポルトガルから伝わって日本で体系化された料理が、シャンパーニュとの組み合わせを得て外国に輸出されるのはエキサイティングだ。

「天ぷら 銀座おのでら本店」
東京都中央区銀座8-5-10 金成ビル6階
電話 050-3187-9470
ランチは5000円から、ディナーは2万円。バイ・ザ・グラスは2000円から。https://onodera-group.com/tempura-ginza/
市村暢央さん(左)と石井宏道・料理長
海老はアンリオと
アユはビールと
ウニの大葉巻きはブラン・ド・ノワールと
キスはシャルトーニュ・タイエと

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