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唯一の五冠ソムリエ ”鉄人”ジェラール・バッセがんで死去

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 世界最優秀ソムリエ、マスター・オブ・ワインなど5つのタイトルを持つ英国のジェラール・バッセが、16日朝自宅で、亡くなった。61歳だった。バッセは末期の食道がんと闘っていた。

 2017年11月にニーナ夫人が進行性のがんと闘っていることを発表し、2018年2月に手術を受けたが、再発して、11月には6-12ヶ月の余命と診断された。2018年9月から、Twitterでひんぱんにメッセージを交換して励ましてきた大橋健一MWによると、クリスマスごろまでは返事が返ってきたが、新年になってからニーナ夫人から「入院中で状態がよくない」とのメッセージが戻ってきていた。

 バッセは1957年にフランス・エティエンヌで生まれた。77年に英国にサッカーの試合を見に来て、ソムリエになろうと決意。いったんフランスに戻って料理学校で勉強し、3年後に再び渡英し、シェフから始めて80年代後半にはソムリエに転向。星付きレストランで働き、コンクールで頭角を表した。

 89年にマスター・ソムリエ(MS)に合格。98年にマスター・オブ・ワイン(MW)に合格し、最優秀テイスターに与えられるボランジェメダルを受賞した。2010年に世界最優秀ソムリエの栄冠に輝き、11年に大英帝国勲章(OBE)を叙勲。13年にはデカンター誌のマン・オブ・ザ・イヤーに選ばれた。2007年にボルドー・ビジネススクールでワインビジネスのMBAも取得している。2017年にはOIVからMSc(マスター・オブ・サイエンス)も授与された。ワイン業界で、MS、MW、OBE、MBA、世界最優秀ソムリエと5つのタイトルに輝く唯一の人間で、伝説的と呼ぶにふさわしい。

 2007年に妻ニーナと共同で英国南部サウサンプトンに近いニュー・フォレストにブティックワインホテル「ホテル・テラヴィーニャ」を開業し、大勢のソムリエがそこで修行した。マスター・ソムリエのグザヴィエ・ルーセット、フランク・マッサールら、多くの弟子を育て、英国ソムリエ業界の育成に大きな役割を果たした。

 日本にも日本酒の勉強やソムリコンクールの審査員などで、何度も来日している。2018年10月には、アジアオセアニア最優秀ソムリエコンクールで優勝した岩田渉さんにお祝いのメッセージをツイートした。

 世界一になったチリ大会の準備では、心理学者や記録係を雇って、メンタル面を管理した。ロンドン郊外の3つ星「ウォーターサイド・イン」で無給の見習いソムリエとして働き、グラスやボトルのありかもわからない状態で対応する能力を鍛えた。世界最優秀ソムリエは6度の挑戦で53歳で手にし、3度の2位入賞にも満足しなかった。世界一に輝いた2010年の翌年に来日した際にきいた。2位でも十分とあきらめたことはなかったのか?

 「挑戦をやめようと思ったことはない。夢は抱いたら、必ず実現しなければいけない。自分を満足させられないから。私は世界一になるという目標を設定したんだ」といつもの温かい口調で答えた。

 謙虚で、包容力があり、会う人だれもが好きになってしまう人柄だった。2013年10月に、カリフォルニアの産地を1週間ほど一緒にツアーしたことがある。気さくに私にワインの感想を聞いてきて、旺盛な学習意欲に驚かされた。「ワインにはいまだに新鮮な発見があり、学ぶことは多い。知れば知るほど、知らないことに気づく」と話していた。

 家族が彼の支えで、サンティアゴの世界最優秀ソムリエコンクールの表彰式で、妻への感謝を表し、1人息子のロマネを読んで抱き上げた場面は感動的だった。

 ソムリエ、MW、ホスピタリティ産業などに幅広い交流があった”鉄人”の死を惜しむ声が、SNSで広がっている。スイス在住のロビン・キックMWは「仕事で試練に見舞われた際は、『ジェラールならどうする?』と自問した。ドンペリニヨンがあなたの天国のグラスに常に注がれていますように」とFacebokに投稿した。

 大橋MWは、彼が18年前に日本酒の勉強に来たときから親交を深めてきた。追悼のコメントを寄せてくれた。

「私がMWの履修中、実際の試験準備が思うように行かなくて、非常につらい時期にも、彼からの一言のアドバイスがすごく私の試験に臨む精神を軽くしてくれました。だから今でも、自分のMWの学位は、ジェラールをはじめとする多くの先輩MWsの方々の助けがあってこそなんだと常に思っています……そういうことを自然と教えてくれたのもジェラールでした。

彼は何事にも手を抜かず、私のような若輩の言葉でも、とても熱心に人の話を聞いてくれ、また素晴らしいアドバイスをしていただける、本当に、本当に素晴らしい方でした。

ジェラールとは特にこの3か月、かなりの頻度でTwitterを通して様々な日常のことをやり取りしていましたが、いつもすぐに返事をしてきてくれ、私が日々楽しんだワインや日本酒の話題、出張先での出来事やその写真をシェアしたり、とにかく頑張って体を治して、また美味しいワインを飲みましょう……と約束していました。

彼は私がプライヴェートで所蔵する古いマデイラに興味を示してくれたため、これはジェラールのために開けるから早く良くなってね!と伝えていたところです。

結局クリスマス後にくれたメッセージを最後に、新春には奥様から、ジェラールの状態があまり良くないとの連絡が入っていました。

とにかくとても悲しいですが、偉大な先輩マスター・オブ・ワインのジェラールが、天国でまた幸せにワインを楽しまれることをお祈り申し上げます」
世界最優秀ソムリエコンクールのガラディナーで息子と(2013年3月、東京で)
世界最優秀ソムリエコンクールの審査員(2013年3月、東京で)
ジュリア・ハーディングMWと(2013年10月、カリフォルニアで)
大橋健一MWと

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