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環境に配慮したワイン造りに取り組むメドックのシャトー(2019年夏メドック)

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 世界各地で気候変動をはじめ、大気や海洋、土壌の汚染、森林減少など様々な環境問題が広がっている。

 

 フランス農業・食糧省による環境価値重視認定High environmental value (HVE)は、生物多様性の保全に対する認証である。HVE認定は生物多様性以外にも水資源の管理に関する事などが規定されており、ジロンド県がフランス国内で最も多く取得している。

 

 メドック地方でどのように環境に配慮したワイン造りが行われているかを取材する機会を得た。

 

*Chateau Anthonic

 

 シャトー・アントニックはムーリスに位置するワイナリー。森林農法を行うことで環境に配慮したワイン造りを行う。オーナ―のジャン・バティスト・コルドニエは子供の頃から、動物、自然、環境に興味を持っていた。葡萄畑の周りに10haの森林がある。樹が水分を蒸発することにより畑に水分を供給し、干ばつの被害から畑を守ることが出来る。

 

 また、森林農法はコウモリや鳥などの生物の多様性を生む。コウモリは、葡萄の果房に損害を与えるハマキガを食べるため、自然の捕食者としての重要性が証明されている。生物多様性を生む環境を整えて捕食者を増やす事が農薬を減らす事に繋がる。森林農法の重要性を学ぶ事が出来るシャトーである。

 

*Chateau Petit Bocq

 

 シャトー・プティ・ボックはサンテステフで減農薬農法で葡萄栽培に取り組むクリュ・ブルジョワである。また、HVEにおいて最も高いlevel 3の認証を得ている。Level 3はlevel 2の認証を3年間得た後でしか取得出来ない。level 3には生物多様性、害虫の管理、肥料の管理、水資源の管理などが含まれる。

 

 ワインのラベルには環境や健康に配慮している意味を込めて、てんとう虫のデザインを採用している。ワイナリーで使用した水は酸性の水になるため、排水による環境問題が起きている。水の管理に対する認証も重要な事を学べるシャトーである。

 

*Chateau Semeillan Mazeau

 シャトー・セミヤン・マゾーはリストラック・メドックのクリュ・ブルジョワで2004年から減農薬農法を行い、2015年から有機農法で葡萄栽培を行う。HVEも申請中である。

 

 ベト病の予防はボルドー液にオレンジのエッセンシャルオイルを混ぜて使用する事で、ボルドー液の全体での使用量を減らす努力をしている。畑での作業が最も重要であると考え、オートミールやそら豆の種をまき、草生栽培を行う。昆虫や花粉を運ぶ虫の定住を促すだけでなく、有機物を供給し、機械による耕作作業をサポートすることができる。草生栽培のメリットを学ぶ事が出来るシャトーである。

 

*Chateau Haut-Gravat

 

 シャトー・オーグラヴァはメドックのクリュ・アルティザンで、オーナーは5代目のアラン・ラヌー氏。20年前から減農薬で葡萄を栽培し、除草剤は5年前から使用していない。

 

 ジロンド川から2km、大西洋から10kmの場所に位置し、常に畑に風が吹く。この風のお陰で気温が上昇せず、過去25年間で2008年を除いては、収穫時期はほぼ変わらないという。メドック地方とほぼ同じ緯度に位置するイタリア・ピエモンテ州のバローロなどでは10年前と比べて、3週間から4週間ほど収穫が早くなっているから驚きだ

 

*Chateau Peyrabon

 

 シャトー・ペイラボンはオー・メドックのクリュ・ブルジョワで有機農法とビオディナミで環境に配慮した農法を行う。ケミカルな物は使用せず、ワインへの酸化防止剤の添加も減らす努力を続けている。

 

 しかし、メドック地方では栽培における病害の一番の問題のひとつがベト病である。有機農法やビオディナミの認証を得る為には、ベト病を予防する為のボルドー液に使用する銅の使用量の上限が厳しくなる為、この地方で栽培を行う事がいかに難しいかという事が理解出来る。

 

*Chateau Fontesteau

 

 シャトー・フォンテスト―はオ―メドックのクリュ・ブルジョワで2017年にHVEのLevel3の認証を得ている。畑の約50%で有機農法を行う。

 

 110haの敷地を所有し30haが葡萄畑で、沼や自然の景観を残している。羊も飼っており、羊が草を食べる。シャトー・フォンテスト―でもビオディナミを試したが、葡萄を収穫できなかったという。敷地の多くが自然の環境のまま残されており、生物多様性がある素晴らしい環境を感じる事が出来るシャトーである。

 

*Chateau Belgrave

 

  シャトー・ベルグラーヴは、サンジュリアンの5級シャトー。HVEのLevel3と、フランス農務省によるTerraVitisの認証を取得している。オーナーは老舗ネゴシアンのドゥルト社。ドゥルトはオー・メドックのクリュ・ブルジョワのレイソンのほか、ブランドワインのヌメロ・アンも展開している。


 ベルグラーヴの2014と2015はサンジュリアンらしいアーシーなタッチとこなれたタンニンを有する安定した品質。ドゥルト傘下のシャトーはいずれも水準が高く、安定して飲める。

 

 ドゥルトはCEOのパトリック・ジェスタン社長の下で、2018年までに、右岸やアントル・ドゥ・メールにも所有するすべてのシャトーがHVEのLevel3とTerraVitisの認証を取得した。「環境に配慮したブドウ栽培は社会的な責任である」という考えに基づいて、レイソンはセラーの刷新などを進めてきた。グループ全体での取り組みがあるのもメドックの特色だ。

 

*Château Devise d’Ardilley

 

 シャトー・ドゥヴィズ・ダレドリーはオーメドックのクリュ・ブルジョワで2015年から有機栽培を行い、2018年にAgriculture Biologiqueの認証を得ている。除草剤は撒かずに、土寄せの機械を利用して除草を行う。

 

 シャトー・ドゥヴィズ・ダレドリーの畑は風が通る丘のため、霜の害を免れることが出来る。2017年は50cm低い、隣のシャトーの畑が霜の害を受けた。近年の気候変動の影響で、気温の上昇だけではなく、霜や雹の害の影響が出ている。畑に吹く風は有機農法においてもカビの病害に対してメリットになる。わずかに50cmの差ではあるが、立地の重要性を感じられるシャトーである。

 

 メドック地方を含むボルドー全体で、すべてのブドウ畑が環境問題に取り組むという目標に向かって積極的に取り組んでいる。HVE認定もジロンド県がフランス国内で最も多く取得しており、ベト病対策に関しても、銅の散布量を減らすための様々な実験が行われていた。

 

 今回の取材で有機農法やビオディナミはどの産地でも可能とは限らず、その土地に合った農法で、いかに環境に配慮するかが重要であるという事を学ぶ事が出来た。

アントニック・オーナ―のジャンバティスタ・レカイヨン
2003年からてんとう虫のラベルを使用しているプティ・ボック
シャトー・セミヤン・マゾーではワインの試飲と見学も出来る
オー・グラヴァのオーナーのアラン・ラヌー氏(左)と息子のクリストフ。ボトリングも家族で行う
シャトー・ペイラボン2016は酸の骨格がしっかりとしたヴィンテージ
1277年に建てられたシャトー・フォンテストー

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