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知られざるスイスワイン 台頭する若きリーダー(3)

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オーガニック転換の進むヴァレー州、クロ・ド・サンペロの挑戦


 マッターホルンに代表されるアルプスの山々や湖があり自然豊かなスイス。グリーンなイメージ通り、全体の12.5%の畑がオーガニック認証を受けている。5年前は4.8%だった認証畑が飛躍的に増えている。オーガニックに転換中のワイナリーも多い。


 オーガニック認証の数字を2025年までに40%に引き上げようと、活動するのが「クロ・ド・サンペロ」(Clos de Tsampehro)のエノロジスト、ジョアンナ・ダイエ(29)だ。


 クロ・ド・サンペロはヴァレー州のフランテエ(Flanthey)にある。ヴァレーの主要な畑はローヌ河右岸の斜面に約50キロにわたり、途切れなく連なっている。クロ・ド・サンペロの畑もその斜面にある。日照量が多く、年間降雨量は650mmと乾燥した土地だ。


 2011年に設立された若いワイナリーが、5年前からオーガニックに取り組み始めた。ジョアンナがドメーヌに加わった3年前からバイオダイナミックスも始めた。ワイナリーを訪れたのは9月末。カベルネ・ソーヴィニョンの最後の収穫を終えたところだった。


 ヴァレー州の土着品種、レーズ(Reze)やヴァレ・ダオスタが起源で古くからこの土地で栽培されているコーナラン(Cornalin)を中心にサヴァニャン・ブラン、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨンなどを栽培している。白ブドウのレーズは酸が高く比較的ニュートラルで、それにアロマティックなサヴァニャン・ブランをブレンドすることでバランスをとっている。


 黒ブドウのコーナランは収量が低く、まとわりつくような細やかなタンニンとアマロナ・チェリーやブルーベリー、肉、野性的な特徴をもつ。コーナランに全房発酵のメルローをブレンドすることで、フレッシュさを加えている。ボルドーよりも温かいこの土地ではメルローも茎まで完熟するという。


 ジョアンナはドメーヌで働くかたわら、ヴァレー州のオーガニック認証団体「ビオ・ヴァレー」で栽培家として無償で働き、オーガニックへの転換を推進している。ヴァレー州はスイス最大のワイン産地。オーガニック転換は国内で最も進んでおり、栽培面積の28%を占めている。


 スイスにはオーガニックのほか、リュット・レゾネのPI(production integree)という認証がある。ここではうどん粉病やべと病に対応するため、オーガニックでは使用できない農薬が使用できる。オーガニック認証を受けていない多くの生産者がこの栽培法をとっている。


 ビオ・ヴァレーはオーガニックの比率を2025年までに40%までに引き上げるのを目標にしている。ジョアンナは近隣のフリィ(Fully)に住むバイオダイナミックスの先駆の女性醸造家マリー・テレーズ・シャパをメンターとして、ひんぱんに助言を仰いでいるという。


世界最優秀ソムリエ、マーク・アルメルトともコラボ


 オーガニック栽培の重要性を発信するため、TEDや公共放送にテレビ出演し、ワインの魅力を情熱いっぱいに語っている。チューリッヒの5ツ星ホテル「ボー・オー・ラック」で働く世界最優秀ソムリエのマーク・アルメルトを審査員に迎えて、若いソムリエのためのテイスティング・コンペティションも開催する。


 マーク・アルメルトとジョアンナは1991年生まれの同い年。若い世代とダイレクトにコミュニケーションできる。今後はオーガニックと共に、バイオダイナミックス認証機関の活動にも力を入れている。


 マスター・オブ・ワイン資格にも挑戦している。晴れてマスター・オブ・ワインになったら、2013年に世界最優秀ソムリエとなったスイス人のパオロ・バッソのように、スイスワインの魅力を国内外に発信していきたいそうだ。スイス人初の女性MWの誕生をスイスのワイン業界が期待している。

 

ワインの試飲コメントは以下の通り。


「Tsampehro Blanc (サンペロ・ブラン)AOC Valais 2018」レーズ40%、ヘイダ(Heida)60%。ヘイダはサヴァニャン・ブランのヴァレーでの名称。収量30-35hl/ha。手摘み。15-18ヶ月樽で熟成。マロラクティック発酵は行わない。清澄と濾過なしで瓶詰め。レモンゴールド色。ドライで快活なミディアムの酸に蜂蜜、熟したピーチ、ライチの芳醇なアロマを感じるミディアムボディの味わい。長いフィニッシュに続く。アルコール13%。


「Tsampehro Rouge(サンペロ・ルージュ)AOC Valais 2018」コーナラン40%、メルロー30%、カベルネ・ソーヴィニョンとカベルネ・フラン30%。収量25hl/ha。手摘み。メルローの一部を全房発酵。225Lと600L樽で2年間の熟成。濃厚なルビー色。サワーチェリー、ブルーベリー、ブラックベリー、スパイスの濃密なアロマに程よい樽のニュアンス。フルボディで豊富なタンニンはなめらか。長期熟成ができる。アルコール13%。


輸入元はやまきゅういちスイスワイン

 

text&photo by 長縄三世

世界最優秀ソムリエ、マーク・アルメルト(左から2番目)とジョアンナ、クロ・ド・サンペロのチーム。スイスは世界有数のホテル学校やスキー・リゾートなどがありホスピタリティ産業に優秀な人材が集まっている。(C) Clos de Tsampéhro
8.ジョアンナ・ダイエ
7.クロ・ド・サンペロの畑。ヴァレー州の畑はローヌ河右岸の南向きの斜面に集中しており、スイスのカリフォルニアと呼ばれる。雨が少なく乾燥している土地。(c)Clos de Tsampéhro
9.サンペロ・ブラン。レーズとヘイダのブレンド。酸の高いレーズは暑いヴァレー州で温暖化のブレンドに重要な品種となってくる

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