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可能性豊かな北海道 持続可能な農業が産む自然派ワイン(2) 

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将来に向けた農村形成とワイン造り
道南、空知、道志地区にフォーカス


日本ソムリエ協会2021年1月刊「Sommelier」178号掲載


 北海道は広い。今回は道南地区と札幌の北東にある内陸の空知地区、札幌から小樽を超えて北西へ向かった日本海沿いの後志地区を中心に訪問した。札幌から函館は飛行機が飛ぶほど離れているが、この3地区には注目のワイナリーが集中している。


 空知地区の岩見沢市には、栃木・足利のココ・ファーム・ワイナリーを牽引してきた醸造家ブルース・ガットラヴが受託醸造する10Rワイナリーのほか、宝水ワイナリー、イレンカ・ヴィンヤードがある。すぐ北の三笠市には、山崎ワイナリー、栗澤ワインズ、タキザワ・ワイナリー、宮本ヴィンヤードなど、注目のワイナリーが集中している。


 また、後志地区には果樹栽培の歴史が長い余市町と仁木町がある。余市は人口2万人の小さな町だが、リンゴ、ブドウ、梨、桃などの果樹栽培では、北海道一の生産量を誇ってきた。NHK朝の連続テレビ小説『マッサン』の影響で、ニッカウヰスキーの蒸溜所がある町として有名になったが、今やブドウの栽培産地として道内でも群を抜く存在となっている。


 北海道のワイン用ブドウの栽培面積の約3割を占める140ヘクタールに、ブドウの樹が植えられている。ブドウの生産量は北海道のほぼ半分を占める。ブドウ栽培農家は50軒を超えて、ワイナリーも十数軒を超えている。今も毎年のように新たな参入者がある。


 余市が短期間で発展したのは、ドメーヌ・タカヒコの曽我貴彦さんの存在が大きい。ココ・ファーム・ワイナリーで、ブルースの下で10年間にわたり農場長を務めた貴彦さんのピノ・ノワールは、ブルゴーニュのトップドメーヌ並みに入手困難になった。


 彼の存在とワインの味わいに惹かれて、ワイン造りに乗り出す若者が後を絶たない。フランスには多くのワイン産地があるが、世界に知られる銘醸産地となった場所には、必ず地域を引っ張った象徴的なリーダーがいた。そのことを思い出させる。


 余市町からわずか10分の仁木町には、広告代理店のDACが宿泊施設や果樹園を備える総合施設として開園したニキヒルズ・ワイナリーがある。大規模な資本を投下したワイナリーによって活気づいている。ほかにも、ル・レーヴ・ワイナリー、オキ・ワイナリーなどがある。


 各地のワイナリーを回って感じたのが、ワイン造りを長期的な視野で考えていることだった。当たり前に聞こえるかもしれないが、サステイナビリティ(持続可能性)を強く意識している。産地の将来、農村の連帯、経済の継続的な安定性などを真剣に考慮している。


 それはフランスやカリフォルニアの生産者たちが口にする「サステイナブルなワイン造り」とは少し違うように思えた。


 例えば、カリフォルニア最北のアンダーソン・ヴァレーに行けば、スパークリングワインのロデレール・エステートから、小川に鮭が遡上してくるように水を汚さない畑仕事話を聞かされる。ナパヴァレーでは、太陽光発電によって賄っている電力自給率の高さや、チャリティ・オークションによる地域医療貢献の歴史を聞かされる。


 ボルドーのシャトー・モンローズでは、電動トラクターで二酸化炭素排出量を削減している話を聞かされ、醸造機器の洗浄水を再利用する設備を見せられる。シャンパーニュに行けば、独自のサステイナブル認証の実効性や除草剤の廃止について詳しい説明を受ける。


 その手法や根底の哲学は正しい。異論はない。環境との調和だけでなく、温暖化の阻止など地球の将来に向けて壮大なビジョンを持って、取り組んでいることがよくわかる。


 日本ではそれ以前の、ワイン産地をどのように継続的に発展させていくかという大前提に向けて、どのように道を敷いて車を走らせるかを、醸造家や農民が模索している。それは、伝統産地のようにワイン産業が定着して、経済が安定していないからだ。


 シャトー・ラグランジュを再建したサントリーの故・鈴田健二さんは「シャトー改革は1世代では無理。成果を見届けるまで50-60年はかかります」と語った。サントリーが1983年に購入してほぼ半世紀がすぎた今、ラグランジュは本来の力を取り戻し、2級シャトーに迫る品質を身に着けた。


 大手企業がインフラの整う伝統産地で回復するのですら、半世紀かかったのだ。歴史の浅い北海道の生産者たちがまず、自分たちの足元のコミュニティ造りから始めようと考えるのは当たり前のことだろう。


 三笠市で山崎ワイナリーを営む山崎家は、自社畑からワインを造る日本には珍しい家族ドメーヌだ。1億円の融資をとりつけ、ワイナリー、醸造施設、宿泊施設を建造した。ナパヴァレーにありそうなワイナリーだ。栽培担当の山崎太地さんは地に足がついている。


 「我々の生活だけでなく、ワイナリーを頂点とした農村のあり方を考えている。いい農村を作るのが目的で、そのためにはいいワインが必要になる。付随する観光ビジネスで域外の客を呼び込むのも大切。我々は空知で数少ない”外貨”を稼げる存在。ワイナリーの存在が地域の役に立つのが大切。僕の代はいいワインを造れる素地を整える。その1つのモデルになればいい」


 山崎ワイナリーのシャルドネやピノ・ノワール、ソーヴィニヨン・ブランは、フランスワインのような力強さはないかもしれないが、内陸の冷涼な三笠の風土を表現している。


 「昔はフランスワインみたいだよねと言われたい時代もあったけど、今は空知だよね、三笠だよねと言われたい」
 

山崎太地さん
色の淡いピノ・ノワール
ワイナリー前に畑が広がる

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