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伝統と現代の折衷、クヴェヴリ(甕)で造るジョージアワイン

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 ジョージアのクヴェヴリ(甕)を使うワイン造りは2013年に、ユネスコの世界無形文化遺産に登録された。ワイン発祥の国として、名前を広めたが、その伝統的な製法は時代とともに変化している。そもそも、伝統的な製法で造られるワインは、全体の20%にとどまる。現在はステンレスタンクや木樽を使う「ヨーロッパ式醸造法」のワインも同時に造る生産者が多いのだ。
 伝統的な製法の流れを説明しよう。サツナヘリ(Satsnakheli)と呼ばれる木製の槽でブドウを踏みつぶし、果汁と果肉、果皮、種子、果梗を一緒に、クヴェヴリに入れる。野生酵母でアルコール発酵が始まると、上に浮かぶ果帽を木製の棒で定期的に突いて沈める。いわゆるパンチングダウン(プランジング)である。2-4週間で終わるアルコール発酵に続いて、マロラクティック発酵が終わると、クヴェヴリにガラス製のふたをして、翌年の春まで待つ。ふたを開けるのは3月から4月ごろ。マセラシオン(醸し)の期間は6か月近くに及ぶ。蓋を開けたら、果肉、果皮、種子、果梗を取り除き、瓶詰めする。
 大前提として、クヴェヴリを使った醸造法で、個性的として注目されているのは白ワインだ。赤ワインについては、マセラシオンの期間は一般的に1-2か月間にとどまる。突き詰めると、発酵槽がクヴェヴリかそれ以外の容器かという違い以外は、大きく変わらない。
 全房で圧搾・発酵し、酵母や亜硫酸を添加せず、還元的な環境で長期間の醸しを行う。人為的な介入をしない自然な醸造法のように聞こえるが、現在は様々な変化が生じている。ジョージアの東部カヘティ地方と西部イメレティ地方では、細部が異なる。カヘティ地方はブドウ畑の70%以上がある中心的な産地。ロシアと接する北にはコーカサス山脈がそびえ、南はアゼルバイジャンと接する。準大陸性気候で、アラザニ川とイオリ川という2つの川が流れている。イメレティ地方は西側の黒海の影響を受ける亜熱帯気候で、雨量が多い。
 まず、大きく変わったのが果梗の取り扱い。大小の様々な生産者に取材したところでは、白ワインも赤ワインも除梗して、果梗を使わない方向に動いている。茎がもたらす青さや硬さを避けるためだ。赤ワインで、果梗が熟した年にのみ部分的に使うのが主流となっている。これは、カヘティとイメレティの両方の地方に共通している。
 ジョージアの白ワインを特色づけるのは、果皮と果汁を長期間、接触させるスキンコンタクトだ。これによって、フェノールを多めに含み、色調の濃い複雑な味わいとなる。これをイタリアの生産者らが模倣したことから、「オレンジワイン」のブームが生まれた。このスキンコンタクトは、東部のカヘティと西部のイメレティでは異なる。カヘティでは、100%スキンコンタクトを行う生産者が主流なのに対し、イメレティでは、デリケートさを重視して、10-15%のみ果皮を入れる生産者が多いという。
 根幹をなす方式は変わらないとはいえ、現代的なテイストに近づいているのは間違いない。ブドウのプレスに、現代的な圧搾機を導入する生産者にも会った。カヘティのマナビに本拠を置く「Giuaani」(ギウアニ)では、クヴェヴリを覆うガラスに2つの穴が開いていた。マセラシオンの期間中、造り手は、2、3週間おきに内部のワインの味見をする。穴からパイプでワインを吸い出すのだが、それだと酸素が入ってしまう。酸化を防ぐために、窒素を穴から注入する。風船が膨らめば作業は完了だ。
 また、醸しが終わった後の処理も生産者によって異なる。クヴェヴリのふたを開けて、果肉、果皮、種子、果梗を取り除いたら、(1)すぐに瓶詰めする(2)別のクヴェブリで熟成(3)ステンレスタンクに移す(4)バリックでさらに熟成ーという4つの選択肢がある。カヘティの代表的な赤ワイン品種のサペラヴィについては、優れた生産者のワインはバリックでさらに6-12か月間、熟成しているものが多かった。テクスチャーがまろやかになり、伝統と現代の中間をいくバランスのとれた味わいに仕上るのだ。
 それなら、最初から、ヨーロッパ式製法でワイン造りをすればいいではないか。そう考える向きもあるかもしれないが、クヴェヴリを使ったワイン造りは、ジョージアの歴史と暮らしに結びついている。そこは譲れない一線なのだ。現代的な手法や現代人の味覚と折り合いをつけながら、進化しているのが今のジョージアワインである。大手生産者では、ブルゴーニュ大学で栽培と醸造を学んだ醸造責任者とも出会った。ジョージアのワインが、昔ながらの伝統をそのまま継承した自然任せの醸造から生まれると考えると、方向を見誤る。
Giuaaniではガラスの穴から窒素を注入
ヨーロッパ式製法(左)とクヴェヴリで造るワイン。Giuaaniで

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