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入手可能なアシルティコ19銘柄総まくり、トップはイエアのワイルド・ファーメント

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 ギリシャを代表する白ブドウのアシルティコ。エーゲ海に浮かぶサントリーニ島を代表する白ワインが、日本でも知られるようになってきた。冷涼な産地の土着品種に注目する世界的な流れの中で、日本のソムリエや愛好家も目を向けている。世界的なワインコンサルタントとして活躍するサム・ハロップMWが、「ミネラリティ」を解きほぐすキャプランワインアカデミーのセミナーで来日したのを機に、ワインレポート・チームと共にアシルティコの比較試飲を行った。サントリーニだけでなく、本土のアミンデオン、オーストラリアのクレア・ヴァレーで造られるワインも含めて、ブラインドで試飲した。評論家が単独で試飲するレポートは多くあるが、MW2人を含む専門家が新旧世界のアシルティコをまとめて試飲したのは世界で初めて。
 アシルティコが注目を集めるようになったのは十数件前。英国のジャンシス・ロビンソンMWが2004年、パープル・ページで紹介した。NYタイムズのエリック・アシモフが2013年にコラムを書き、米東海岸でも人気が出た。サントリーニが発祥の地と考えられるが、アテネ周辺、マケドニア北部のドラマなどでも栽培される。南オーストラリア州のジム・バリーは2007年、この品種のとりこになり、2015年から本格的な発売を始めた。
 サントリーニで「PDOサントリーニ」を名乗るには、アシルティコを75%以上使用する必要があり、アイダニ(Aidani)、アシリ(Athiri)などをブレンドできる。サントリーニは北緯36度で、シリアやアルジェリアとほぼ同じだが、強風が終始吹き付け、キャノピーに熱がこもらず、カビの心配もない。風に対抗するために、地面にバスケットを置くように植える「クールーラ」(Cooloola)と呼ばれる株仕立てを行っている。
 サントリーニ島は紀元前17世紀に爆発した火山によって形成され、溶岩、火山灰、軽石など多孔性の下層土を砂地が覆う。土壌の有機物が少なく、粘土質が含まれないため、フィロキセラに襲われたことがない。50年超の自根の古木が生き延びている。プロヴィナージュで増やす株は1ヘクタール当たり1500本前後。収量は15-25ヘクトリットルにしかならないため、凝縮度が高い。

ミネラリティの専門家サム・ハロップMWも試飲に参加

 pHが低いため、培養酵母で発酵させることが多く、マロラクティック発酵は行わない。ステンレスタンクで還元的に醸造を行うスタイルが主流だ。1980年代までは、酸化した高いアルコール度のスタイルに仕上げられていたが、大手のブターリが1989年に島に開いたワイナリーに、温度調節機能の付いたステンレス発酵槽を持ち込み、モダンでクリーンなワインが生まれた。ブターリはドメーヌ・ハツィダキスのハリディモス・ハツィダキス、イエア・ワインのヤニス・パラスケヴォプロスが働いていたワイナリーで、サントリーニのワインの揺りかご的な存在だ。
 今回は日本で入手できる主要なアシルティコを、甘口のヴィンサントも含めて試飲した。フレッシュでミネラル感に富む自然な味わいのワインが多く、平均点も高め。19本中8本が平均90点以上の「傑出」に選ばれた。トップは平均93点の「アシルティコ・バイ・イエア ワイルド・ファーメント 2016」だった。酸化の度合いが強いワインの評価は低く、ステンレスタンクで還元的な醸造を行ったミネラル感に富むワインが高い得点を得た。世界で評価されるイエア、シガラス、アルギロスの得点が高いのは当然として、協同組合のサント・ワインの高品質に驚かされた。
 サム・ハロップMWは、大橋健一MW、英国のジャーナリストジェイミー・グッドと並んで、ミネラル感の定義づけについては世界で右に出るものがない。自らもミネラルの塊である「セダリオン」をワイへケ島で生産している。「一貫性と品質の高さに驚いた。アシルティコを探索する偉大な機会となった」と、今回の試飲を喜んでいた。
 なお、大橋健一MWはドメーヌ・シガラスのブランド・アンバサダーを務めているが、試飲はすべてブラインドで行われ、客観性を確保した。得点を見る限り、公平性は確保されている。

傑出8銘柄の得点はこちhttps://www.winereport.jp/archive/1153/
優良11銘柄の得点はこちhttps://www.winereport.jp/archive/1154/


一貫して高品質で多様性のあるスタイル
 
山本昭彦
「4人のテイスターの得点傾向がほぼ同じで、一貫性のある結果となった。ステンレスタンクで醸造し、フレッシュ感、ミネラル感をきれいに表現するタイプが全体として高い評価を得た。日本に輸入されている生産者はベスト・オブ・ベストというべき顔ぶれで、どれを飲んでも大きく失望させられることはない。地中海に浮かぶサントリーニ島でも感じたが、塩気とうまみがあり、魚介類は生でも、火を入れてもよく合う。価格的にも手の届く範囲に収まっている。日本人がもっと探索すべきワインである」

大橋健一MW
「概して高品質だった。樽を使わない白ワインは往々にして、複雑性と凝縮度に欠けると見なされがちだが、アシルティコは違う。ステンレスタンクで醸造したワインでも、凝縮度のレベルが高く、よいバランスと長さを備えている。粘性があるのに、酸が高めで、フレッシュだった。水のストレスからハンターヴァレーのセミヨンのようなスタイルもあれば、古いリンゴや湿ったウールを思わせるシュナン・ブラン的なスタイルもあった。硫化物の使い方が上手」

サム・ハロップMW
「驚いた。品質の高さに一貫性があり、スタイルは多様性がある。よく熟した果実味主体のスタイル、イエアのようにブルゴーニュ的なモダンスタイル、ジム・バリーのようにソーヴィニヨン・ブランを連想させるアロマティックなスタイルもあった。マディラ的な甘口のヴィンサントもいい。酸化的ではなく、還元的に造られたミネラル感に富むスタイルがアシルティコには合っている。リースリングのようにペトロール香が出た熟成したものより、若いほうが好ましい。懐の深いアシルティコを探索する偉大な機会となった」

大越基裕
「全体の印象としては、フレッシュな酸と塩気が特色となっているが、生産者によって果実味の出方にバリエーションがある。凝縮感の高いタイプがあれば、ライトな飲みごたえのものもある。素材重視となっている現在の料理シーンにおいては、樽が控えめで自然な味わいとなるアシルティコは合わせやすい。ワインの持つ塩気と料理の塩気、ワインの持つうまみと料理のうまみを合わせるのは、魚介料理では特に有効である」
全日本最優秀ソムリエの阿部誠さんも参加
「貴重な機会となった」とサム・ハロップMW

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