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「インターナショナル・ワイン・チャレンジ」で得た7つのレッスン

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 世界最大級の国際的ワイン・コンペティション「インターナショナル・ワイン・チャレンジ」(IWC)が、ロンドンで開かれている。日本酒とワイン部門で、5日から9日まで5日間にわたり審査した。多くの収穫が得られた中から7つのレッスンをまとめてみよう。


 IWCは英国を拠点とするウィリアム・リード・ビジネス・メディア社が開催し、2019年で36年目に入る。11月と4月の2度にわたり開かれる。日本酒部門は最初の2日間でメダル候補を絞り、最後の1日でメダルの内容を確定する。ワインは「ラウンド1」でメダル候補を絞り、「ラウンド2」でメダルの内容を決める。「ラウンド3」では、「ゴールドメダル」と評価されたワインを審査するトロフィーラウンドが行われる。コ・チェアマンが再び試飲して、地域別、国別などのメダル、チャンピオントロフィーなどを決める。


 各テーブルには、議論を取り仕切ってまとめる「パネル・チェア」、コメントの取りまとめなどをする「シニア・ジャッジ」と「ジャッジ」が存在する。その上に各テーブルの審査をチェックし、すべてのワインを試飲する6人のコ・チェアマンが存在する。同じボトルに対して、審査を何度も繰り返し、「アウト」でもれたり、不当に高い「メダル」が出ない仕組みになっている。パネル・チェアとコ・チェアの多くはMWだ。


 「ラウンド1」は「アウト」(79点以下)、「コメンデッド」(80-84点)、「メダル」(85点以上」に振り分ける。ひどいワインも高品質ワインも玉石混交で体力を使う。私が参加した2日間は「ラウンド2」で、ラウンド1で絞り込んだワインのメダルを「ブロンズ」(85-89点)、「シルバー」(90-94点)、「ゴールド」(95-100点)に分けるのが主な仕事。一定の品質は確保されているが、コメンデッドやアウトのワインも出る。


 ジャッジにはギャラは出ない。飛行機も宿泊も自己負担となる。それでも、世界から専門家が飛んでくるのは、ほかにはない魅力があるからだ。7つのレッスンをまとめた。


1)ビジョンが広がる

 産地は多岐にわたる。モルドヴァの白、プーリアの赤、イングリッシュ・スティル、リベラ・デル・ドゥエロ、リースリング甘口、シャンパーニュ……有名産地の試飲会中心の日本では、体験しにくい産地や輸入の少ない産地もある。コンペティションに出品料を払って出品する生産者は、世界市場を狙っているわけで、世界の新興産地の現況も理解できる。


2)品質評価能力が上がる

 コメンデッドにとどめるのか、あるいはメダルを与えるなら何色にするのか。各テーブルの審査員4、5人の意見を一致させる必要がある。全員の意見が一致するワインもあるが、自分の評価が異なる場合は、なぜ優れているのか、なぜだめなのかを説明しなければならない。1本の試飲にかけられる時間は1-2分程度。素早く判断して、コメントをまとめる能力が上がる。メダルのワインはシニア・ジャッジがコメントをまとめ上げるので、使えるコメントを用意しておく。真剣勝負である。


3)国際標準の評価が身につく

日本では香りの表現に重きが置かれがちだが、世界のインポーターのバイヤー、ワインメーカー、コンサルタントたちは、テクスチャー、タンニンや酸のバランス、フィニッシュなどを踏まえて総合的に品質を評価する。「エレガント」「パワフル」などの抽象的な言葉ではなく、個別の要素の正確な分析に基づいた総合的な評価をするよう求められる。言葉使いは正確でなければならない。


4)試飲コメントを使い分ける

IWCは一般消費者を意識して評価し、コメントを紹介するので、技術的な言葉は使わない。「マセラシオン・カルボニック」「オリとの接触」などの用語は避ける。消費者に誤解されず、アピールしやすい言葉を使う。力強いを意味するなら、「powerful」ではなく「opulent」にする。発展した風味には「evolved」より「matured」が好ましい。「firm」などネガティブなイメージを与える形容詞も避ける。消費者向けのコメントは、専門家や愛好家向けの分析的なコメントとは言葉使いが異なるのだ。


5)コミュニケーション力が上がる

日本からは、甲州のスパークリングと長野のメルローのフライトがそれぞれあった。素性がわかるワインもあったが……日本人なのでいろいろと質問された。夏の気温、内陸部か海に近いか、品種特性。知識を披露するのはもちろんだが、ごく限られた時間で要領よく説明する必要がある。1日の試飲数は50-60本。朝10時からランチタイムを除いて夕方4時ごろまでかかる。複雑な要素を盛り込みながら、1分以内の素早い会話が求められる。


6)ネットワークが広がる

偽造ワイン鑑定家のモーリン・ダウニーは毎年、サンフランシスコから飛んでくる。仕事柄、高級ワインとその偽物は大量に試飲しいているが、品質評価能力を上げるためにやってくる。各国の顔見知りの専門家、英国在住のマスター・オブ・ワインのジェイミー・グッドらとも顔を合わせた。ふだんはゆっくり話す時間もない相手たちだが、審査終了後のビールタイムなどで、最新情報を手に入れられる。モーリンから日本でセミナーをしたいという申し出を受けるなど、仕事の幅が広がる。


7)自分を客観視する

審査後は同じテーブルのジャッジを評価して投稿する仕組みになっている。ジャッジの質をあげるためで、企業の360度人事考課のようなものだ。そのためにも、長年参加しているパネル・ジャッジやシニア・ジャッジの発する一言一言を注意深く観察して書き留める。発見と刺激に満ちている。自分を振り返って、この表現はここが足りない、あそこの解釈が間違っていると気付かされる。知れば知るほど、自分が知らないことに気づく機会を与えてくれる。


 今回はボルドー2018プリムールでほぼ1週間過ごして、そのままロンドンに飛んだ。定点観測のプリムールでは、ひどいワインはないので、深い洞察が求められるとはいえ、ある意味で楽だ。シャトーの技術責任者も積極的に説明してくれる。完璧に準備されたその孤独な試飲とは違って、IWCにはチームワークで大量のワインから「玉」を発見する楽しさがある。参加するたびに収穫や発見があるから、世界の多忙なプロが集まるのだろう。

中国のヤン・ルーMS(中央)も初参加
モーリン・ダウニー(左端)もジャッジで参加
IWCイベントディレクターのクリス・アシュトン

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