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不可能を可能にしたモエ・ヘネシーの赤ワイン、シャングリラで生れるAo Yun

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 中国は消費・生産ともに大国になったが、生産国としては遅れをとっている。そのイメージを変えるのがこの「Ao Yun」(アオ・ユン)だ。チベット自治区に近い雲南省北部のヒマラヤ山脈のふもとから生まれる。

 ここ1、2年で最も注目を集めたアジア発のワインと言っていいだろう。モエ・ヘネシー・エステーツ&ワインズがアジアで最高のワイン造りを目指して、2009年に始めた。ジャンシス・ロビンソンMWやデカンター誌のジェーン・アンソンら英国のトップジャーナリストが、プロジェクトの進行状況を紹介してきた。5月のヴィネクスポ香港でお披露目されたが、それより一足先の3月末に、エステーツ&ワインズのジャン・ギョーム・プラッツCEOと、試飲する機会に恵まれた。

 世界のどこの産地とも似ていない赤ワインだった。あえて言うなら、アルゼンチンの高地やナパヴァレーの山岳部のボルドータイプを連想させる。凝縮感と酸のバランスがいいのだ。深いクリムゾンレッド、ブラックベリー、甘草、カルダモンのスパイシーな香り、ストラクチャーは強固で、シルキーなタンニン。フィニッシュに砂利をなめるようなミネラル感。アルコール度は14%超だが、生き生きした酸があって重さを感じさせない。カベルネ・ソーヴィニヨン90%、カベルネ・フラン10%。

 畑の標高は2200-2600メートル。雨は少なく、アルゼンチンのようなヒョウは降らない。7000メートル級の山々にさえぎられ、1日の日照時間は6-7時間しかない。ハングタイムは通常より30日以上長い160日に達する。収量は低く、複雑な香味を蓄える。ジャン・ギョームはその気候条件を「低温調理するように、シルキーなタンニンと強い香りが生まれる」とたとえた。
 ジャン・ギョームはシャトー・コス・デストゥルネルの支配人として、最新の醸造設備を導入し、品質を高めた男。だが、今回の畑はジェームズ・ヒルトンが「失われた楽園」で描いたシャングリラから車で5時間もかかる未開の地だ。苦労の連続で、自然の神秘を感じたという。最初は白酒用の壺で発酵した。醸造中に停電し、自家発電用の燃料を買いに行ったこともある。培養酵母はない。適切な台木もわからない。ある意味、自然派ワインだ。区画別の醸造などできない。それでも、ワインとしてまとまっている。ポテンシャルは大きい。米国での小売価格は300ドル。
 「不可能を可能にした。資金力も人的資源も豊富なエステーツ&ワインズの総合力のおかげだよ」という彼の言葉はおおげさではない。ジャン・ギョームがコスから、新世界の各地にワイナリーを展開するエステーツ&ワインズのCEOに就任したのは2012年。まだ学習のまっ最中だ。設備をそろえて、テロワールの理解が進めば、世界のここにしかない赤ワインが完成するだろう。
 試飲から1週間後。プリムールにわくボルドーのパーティで、ジャン・ギョームと再会した。世界を飛び回る男は、知り合いに囲まれて、穏やかなボルドー人に戻っていた。クロ・デ・ランブレー買収を仕掛けたパワー・ブローカーが繰り出す次なる一手は何だろうか。
 
2016年3月31日 東京・日本橋で
Ao Yun 
92点
輸入元:MHD モエヘネシー ディアジオ

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