世界の最新ワインニュースと試飲レポート

MENU

  1. トップ
  2. 記事一覧
  3. アメリカを作ったワイン、スタッグス・リープ・ワイン・セラーズ カスク23の1978

アメリカを作ったワイン、スタッグス・リープ・ワイン・セラーズ カスク23の1978

  • FREE
 歴史を体験できるボトルが時にある。赤ワイン漬けのボルドー・プリムールから帰国した翌日に飲んだカリフォルニアワインが、まさにそうだった。
 ワイン地図を塗り替えたパリの試飲会が開かれたのは1976年。フランス勢を打ち負かした赤ワインはスタッグス・リープ・ワイン・セラーズの「ナパヴァレー カベルネ・ソーヴィニヨン 1973」だった。「アメリカを作ったワイン」として、ワシントンのスミソニアン博物館に保存されている。ワイン研究家の堀賢一氏がこの夜、持参してくれたマグナム瓶は、スタッグス・リープの「カスク23 カベルネ・ソーヴィニヨン 1978」。試飲会の2年後に生産された貴重なワインである。

 カスク23は今ではワイナリーのフラックシップだ。初めて生産されたのが1974年。当主ウォーレン・ウィニアルスキーは当時、ワインを新樽とイングルヌックから購入した中古樽で熟成していた。「23」という番号をつけた樽が素晴らしかったため、それだけを詰めたのが始まり。1975、1976は造られず、1977と1978は生産された。1978は糖度が非常に上がり、歴史的なビッグヴィンテージとして知られている。
 いきなり全開だった。ブラックカラント、甘苦系スパイス、森の下草、なめし革、かすかなブレットが複雑性を与えている。テクスチャーはまろやかで、うまみたっぷり。タンニンは統合されていて、ほのかな青さが心地よく、ミネラル感のある余韻はきわめて長い。40年近い年月を感じさせないエネルギーがあった。
 70年代のボルドーは投資の余裕がなく、栽培も醸造も今の水準にはない。カリフォルニアでは、ロバート・モンダヴィが設立されたのが1966年で、こちらはヨチヨチ歩き。テロワールだけの勝負になれば、カリフォルニアに分があったのが、パリの試飲会で勝利した理由だろう。当時は灌がいも行われていない。日照に恵まれ、ブドウが完熟した。カリフォルニアの古酒を飲むのは貴重な機会だが、飲むたびに発見がある。
 スタッグス・リープがデビューしたのは1972年。「パリスの審判」でムートン・ロートシルト1970、オー・ブリオン1970などを破ったカベルネ1973の樹齢は、わずか2年だった。こういうワインを飲むと、樹齢神話の意味を考えさせられる。ハーラン・エステートで飲んだ1991も、樹齢6年だが、きれいに熟成していた。現在のカスク23はSLVヴィンヤードとフェイ・ヴィンヤードのブレンドだが、当時は火山性土壌のSLVのブドウだけで仕込んだ。後味にまとわりつくミネラル風味からもそれが感じられる。
 ウィニアルスキーは後継者がいなかったため、ワイナリーは2007年にサン・ミッシェルとアンティノリのジョイント・ヴェンチャーが買収した。スタッグス・リープは、ジョン・コングスガード、オーパスワンのマイケル・シラーチ、アンディ・エリクソンら名醸造家を輩出したことでも知られる。その意味でも、ナパヴァレーの歴史が凝縮されているワイナリーだ。

2016年4月11日 東京・銀座のイタリアン「クロディーノ」で

スタッグス・リープ・ワイン・セラーズ カスク23 1978
94+点

購読申込のご案内はこちら

会員登録(有料)されると会員様だけの記事が購読ができます。
世界の旬なワイン情報が集まっているので情報収集の時間も短縮できます!

Enjoy Wine Report!! 詳しくはこちら

TOP