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CEOだから言える、「クリュッグをごちそうしてあげて」

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 現地で飲むワインはおいしいと言われる。日本のインポーターは輸送に気を使うから、大きく違うはずはない。それなのに、クリュッグの6代目当主オリヴィエ・クリュッグはこう言っていた。
 「メゾンのものと自宅の冷蔵庫のものでは味が違う。ニューヨークで飲むものならなおさらだ」
 シャンパーニュは、紫外線や温度の影響を最も受けやすい。ブレンドして造り上げたテイスターにしてみれば、微妙な味わいの違いを感じるのだろう。
 私も今回、パリでグランドキュヴェを飲んで、東京との違いを感じた。酸がきれいで、最初は香りのたちかたが控えめ。締まっているいるが、時間とともにふくらみと広がりが出る。シルキーな質感と、細かな粒子が舌の上にまとわりつくリニア感。微妙な酸化によるヴォリューム感より、背筋の伸びるミネラル感を感じた。それはメゾンでテイスティングしたのと同じ感触だった。

 場所はパリの老舗ワインショップ「ルグラン」のバー。オーナー中島董商店から赴任中の布施真CEOとグラスを交わした。「状況と飲む相手がいいからですよ」と言ったのはその通り。11月にしては暑く、乾いていた。ただ、注文してくれたのは布施氏ではない。クリュッグCEOのマルガレート・エンリケスさん。たまたまランチに来ていたのだ。なんとラッキーな。
 ヴェネズエラ生まれのエンリケスさんはハーバード卒の才媛。8歳でモエ・エ・シャンドンの泡に洗礼されたという。2001年にモエ・ヘネシー・グループに入り、アルゼンチンのシャンドンを経て、2008年にクリュッグのCEOに任命された。最初はラグジュアリー・ブランドの経営に慣れず、1年目の査定は「D」だったと何かで読んだ。
 近年のクリュッグの進撃は目覚ましい。デゴルジュマン後の熟成期間を長くする一方で、IDコードの導入などマーケティングも抜かりない。クリュッグの歴史を学び、「ラグジュアリー」の本質を理解した成果だろう。シャンパーニュのメゾンは当主やシェフ・ド・カーヴが表に出るが、長期的な戦略とビジョンの必要なビジネスだから、経営者の果たす役割が極めて大きい。

 パリらしい土曜の午後。喧噪の中で、ゆっくりと時間が流れる。よく冷えたグラスの中で真珠のように連なる小さな泡。ブルゴーニュから300キロのドライブの疲れが癒された。IDコードを確認する余裕はなかった。
 それにしても。一度でいいから、言ってみたい。
 「クリュッグを彼に、ごちそうしてあげて」
 このセリフはCEOが言うから意味があるのだ。

2015年11月7日 パリのワインショップ「ルグラン」で
クリュッグ シャンパーニュ グランドキュヴェ
93点

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