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影響力より書くものの品質が大切、新著を出したニール・マーティンに聞く

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 有料ワインサイト「Vinous」(ヴィノス)でボルドーとブルゴーニュを担当するニール・マーティンが来日した。世界で最も影響力のある評論家の1人だが、小説のようなタッチを盛り込んだ従来のワイン記事とは異なるスタイルでワインを物語る。4月に出版した『The Complete Bordeaux Vintage Guide:150 Years from 1870 to 2020』を読み解きながら、ワイン評論に新たな地平を切り開いた52歳の英国人を紹介する。


 マーティンは英国エセックス生まれ。経歴は従来の評論家とは異なる。1994年に来日し、東京・蒲田の英会話学校で講師をした。輸入業者のJALUXに入社してバイヤーを務めた。ワインを飲まない家庭で育ち、ワインのことはよく知らなかったが、徐々に関心を持ち始める。

 

最初からワイン愛好家ではない


 退屈だったので昼休みに、コンピューターのコーディングの本を買った。そして生まれたのが個人サイト「wine-journal.com」だ。ボルドーとレディオヘッドの好きなマーティンの自由なテイスティング・ノートは人気を集めて、50万を超す月間ページビューを集めた。


 帰国してWSETディプロマを取得し、英国のDRC代理店「コーニー&バロウ」のDRC試飲会に招待されるまでになった彼は、ロバート・パーカーに声をかけられて「ザ・ワイン・アドヴォケイト」のレビュワーになった。引退したパーカーの後任のボルドー担当になったが、同じパーカー門下生のアントニオ・ガッローニが設立したヴィノスに2018年に移籍した。


 今回の本は2012年に自費出版した「Pomerol」に続く2冊目の著作。150年にわたるボルドーのヴィンテージの評価に、その年の映画、音楽、出来事をかけあわせている。2019年を例にとると、出来事は香港の反政府運動。音楽はビリー・アイリッシュの『バッド・ガイ』、映画はアカデミー作品賞の『パラサイト 半地下の家族』。作品の選択から、マーティンのシニカルで機知に富む批評眼がうかがえる。


 マーティンはJポップからデヴィッド・ボウイ、ニルヴァーナまで守備範囲の広い音楽リスナーで、ヴィノスでも音楽評論をしている。今回も東京・新宿のレコード屋でアナログ版を探した。ワインの作柄だけでなく、時代が浮かび上がる類例のないワイン本となっている。


 ヴィンテージ情報は詳細かつ正確だが、実はこの本の狙いは購入すべき優良年の紹介ではない。優良とされる年も不作とされる年も平等に扱い、不作とされる年のワインを見捨てるべきではないし、見どころがあるワインもあると言いたいのだ。


ライヴの物語を伝えたい
パーカーに発掘される

 

 彼の視点はユニークで、文章はほかの評論家やジャーナリストとは異なる。その典型が毎年のボルドー・プリムールのレポートだ。冒頭には創作した風刺的な物語が織り込まれ、気温、降水量や開花、収穫日などのデータを羅列した退屈な記事にはなっていない。


 「私は自分が読みたいものを書いている。事実を並べたドライなレポートは私自身が読みたくない。退屈する。生産者との交流や新しい出来事など、ライブで起きた物語を書きたい。自分の声を大切にしたい。ライフ・レポーティングみたいなものだ」


 筆が速い。テイスティング・ノートは試飲したその日に書く。ボルドーなら1日で6-8軒。長大なプリムールのレポートも5日で書き上げてしまう。彼のスタイルを最初に認めたパーカーが寛容だったとつくづく思う。経験を積み重ねて、レポートは洗練されてきている。


 世界最大級の高級ワイン・トレーダーのLiv-exが5月、ボルドー2022プリムール・キャンペーンで、世界44か国にいる630以上の会員を対象に、「2022プリムールの購買に最も影響力のある評論家」を調査した。マーティンはウィリアム・ケリー(ワイン・アドヴォケイト)を抑えて、2年連続でトップに立った。


 しかし、マーティンにはどうでもいいことだ。


 「影響力が優先事項の人もいるだろうが、大切なのは書いているものの品質だ。正しく、詳しく、面白いか。5人でも認めてくれる人がいればそれでいい。ワインメーカーはレガシーという言葉をよく使う。自分にとってはヴィノスの記事はもちろん、頂点にあるのは本の出版だ。ヒュー・ジョンソンやマイケル・ブロードベントみたいな偉大な本を残したい」


 4月のボルドー・プリムールには2週間半、11月のブルゴーニュの新ヴィンテージ試飲には6週間をかける。希少な古いヴィンテージを飲む機会にも恵まれる。ありがたいが、飲み干さないといけないという義務感は感じないようにしている。それを重圧にしたくないからだ。


 健康に気をつけて、スマートな体型を保っている。今回は2週間半かけて、長野の産地や京都を旅した。猛暑だったが、すっかり京都に魅入られた。旅の合間をぬって、ジョギングもした。


 今回の旅は日本人の妻と娘にとっては帰省でもあった。ロンドンのベリー・ブラザーズ&ラッドで働いていた奥さんとの出会いは、DRCの試飲会がきっかけだった。日本人でほぼ初めての、ロンドンでのマスター・オブ・ワインの受験生でもあった。


 ワイン評論の本場ロンドンから登場し、ロバート・パーカーに見出された風変わりなイギリス人は、日本の文化と出会い、新たな何かを発見したに違いない。
 

新宿で購入したBlock Partyの7インチ盤
2022年5月、ドメーヌ・ポンソのクロ・ド・ラ・ロッシュ垂直試飲会にて

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