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パトリック・ピウズ 追い求めるはシャブリのテロワール表現

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 パトリック・ピウズのワインには人を惹きつける味わい深さを感じる。上質なマイヤーレモンに溶け込むほのかな磯の香り、筋の通った酸味とそれを支える厚みと骨格…それだけでは表現出来ない底知れぬ奥行きがそこにはあるのだ。


 味わい深いワインを醸す造り手は人間的にも興味深い。パトリック・ピウズはまさにそんな造り手だ。


 フランス全土が盛夏を迎えたような2023年7月上旬。シャブリ村内のパトリック・ピウズのセラーを訪問し、ボトリングを終えたばかりの2022年ヴィンテージの試飲と共に話を伺った。


テロワール表現を求めて


 ピウズのワイン造りにとってすべてはブドウからだ。月並みな表現だが、実際にその哲学は彼の言葉の節々から感じる。


 彼自身は自社畑を所有していないが、これまでこのシャブリの地で培ったブドウ栽培家たちとの関係から上質なブドウを買い付けている。


 樹齢は重要な判断材料だ。樹齢15年以下からのブドウは買わない。


 「15?60年のブドウ樹はミルランダージュの程度も丁度よく、できるブドウの質と量のバランスがいい。そして何より、その土地の違いを表現してくれる。」


 追い求めるのは古木からのブドウの持つテロワール表現力だ。


醸造はサポート役、以上でも以下でもなく


 「醸造上の決断の誤りや選択ミスでブドウの持つ表現の可能性が減っていく。どれだけそのブドウの100%を維持できるか」


 ピウズの話を聞いていると、彼にとって醸造工程は減点方式の様なものだと感じた。醸造を極め、若くから才能を認められた彼が放つからその言葉が面白い。


 彼にとって醸造による加点は無く、醸造で大事な事はいかにそのブドウの持つ可能性を最大限引き出すためのサポートができるかだ。


 広めの表面積を持つ発酵槽を使う理由は還元を抑えるためで、発酵は自然酵母に任せる。100%マロラクティック発酵。シャブリの定説だが、その目的の第一声は“微生物的安定のため“だ。


 「そうでければ0.60μm(マイクロメートル)の濾過を掛けなければならないからね」


醸造を知らなければテロワールの表現はできない。


 基本的にプルミエクリュ以上の発酵及び熟成で使うフレンチオーク樽は全て古樽だ。樽はシャブリのラロッシュからよく購入するが、最近はシャンパーニュのジャン・マルク・セレックから買うことも多い。毎年約10?15個を買い替える。


 ただ、“暑い年”に使われた樽は買わない。樽の残り香のアプリコット香がワインに付くのが嫌だからだ。


シャブリの熟成力に驚愕


 全生産量の10%は出荷せずにセラーに寝かせている。これらはライブラリーリリースとして、熟成を経てから自身の判断で出荷する。基本的にすべてレストラン向けだ。シャブリの持つ熟成力をより多くの方に知ってもらいたいと考えている。


 レ・プリューズ 2012の複雑さには目を見張ったが、プティ・シャブリ 2009にも驚かされた。ドライハーブやナッツの熟成香が広がりながら、直線的に伸びる酸味によって支えられる骨格。プティ・シャブリでこの表現力を味わうと、彼の思いを断然支持したくなる。


 ちなみに2022年は納得のいくヴィンテージのようだ。分析的には2009年に似て中味に膨らみがしっかりあるが、フェノリック熟成は2012年寄りでワインの構成力は2009年より上と評する。


 「シャブリ・テロワール ド フィエ 2022」の持つ垂直的に筋の通った酸味に程よく厚みのある果実味、ひんやりとした鉱物様な余韻の長さがそのクオリティの高さを示している。


 ワインの仕上がりに満足そうに、試飲用に開けたワインをグラスへ注ぎながら彼は屈託のない笑顔を終始見せていた。ピウズは生まれのモントリオールから紆余曲折へ経て、彼の地シャブリで世界が注目するワインを造っている。人生とは分からないものだ。

 

「Life is Joke!」
そんなピウズとの対話の中で筆者にとって印象的な一言だった。


 ピウズお気に入りのブリティッシュコントコメディ「モンティ・パイソン」の様に人の心に響くものを造りながらも遊びの要素は忘れない。彼らしい言葉だ。

 

Text&Photo 織田楽

 

セラーにてパトリック・ピウズ
セラーで眠るバックビンテージ
グランクリュの丘から見下ろすシャブリ村

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