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オークションの盛況で日本の高級ワインの二次市場が定着してきた。バブル時代に輸入されて眠っていた”埋蔵金”ワインが国内の若い実業家を引き寄せる一方で、アジアの富裕層が円安とインバウンド需要で日本市場に注目する兆候が見える。その反面で、偽造ワインの脅威も拡大している。高級ワイン市場が香港から東京にシフトしてアジアのハブになるのだろうか。成長する二次市場の現状と課題、展望を探る。
リスクはらむ並行輸入や買い取り業者のワイン
ワインの二次市場とは、コレクター、レストラン、ワインショップなどが一次市場で入手した高級ワインに付加価値がついて高値で取り引きされる市場をさす。日本ではYahoo!オークションの歴史が長いが、これは二次市場にはあてはまらない。真贋鑑定の機能がないフリー・マーケットのようなプラットフォームには、偽物や粗悪品が氾濫している。
同様に、増加し続ける買取業者がチラシやネットで宣伝して、デパートなどでワインの買い取りをする機会が増えている。これもまた、二次市場の拡充とは異なる。不要になった贈答品が取引されているにすぎない。出所が不明で、保管されてきた環境も不透明だ。
百貨店のワイン売り場でさえ安心できない。古いヴィンテージのラ・ターシュやロマネ・コンティなどはプロヴェナンス(来歴)がはっきりしない。真っ当なインポーターなら輸入しないし、ショップは仕入れない。都内の百貨店でロマネ・コンティの疑わしいボトルが陳列されているのを確認したことがある。
並行輸入されたヴィンテージ・ワインはリスキーだ。コレクターが、あるインポーターから購入したシャトー・ラフィット・ロートシルト1902を、国内最大手オークションハウス(Top Lot)に出品したところ拒否された。キャップシールを切ったら、コルクに焼印がなかった。シャトーがリコルクしたなら焼印があるはずだ。
私がインポーターに問い合わせたところ、長い付き合いのある信頼できる会社から仕入れたという。「焼印がないのは不思議だが、古いボトルなので本物とも偽物とも判断できない」と、その会社から連絡があったという説明を受けた。
日本には真贋鑑定の経験を積んだワイン鑑定家はごく少ない。世界に偽造ワインが氾濫しているという認識すら持たないオークションハウスも存在する。インポーターやワインショップにはもちろん鑑定家はいない。ボトルのコンディションの判断も容易な仕事ではない。
良心的なインポーターはだから、リスキーな並行輸入ワインは扱わないが、消費者はDRCやルーミエなどの希少なワインを欲しがる。とはいえ、正規輸入元が扱うDRCやルーミエなどのレア物ワインは、信頼されるワインショップやレストラン、ホテルにだけ割り当てられる。そのため、並行輸入品に頼ってきたが、その流れが健全なオークションで変わってきた。
健全なオークション牽引したTop Lot
疑わしいボトルや不良品があふれ、愛好家が足を踏み入れにくかったにもかかわらず、二次市場が発展したのは信頼できるオークション会社がオークションを開くようになってからだ。2021年に設立されたトップ・ロット(Top Lot)が二次市場を牽引してきた。
Top Lotの初回オークションは2021年2月に開かれ、293ロットが主品され、6306万円(落札手数料含まず)を売り上げた。年間4回のオークションが開かれ、2023年後半から2024年前半にかけては2億8000万円から3億1000万円(落札手数料含む)を売り上げている。1回の出品ロット数は1500点前後。売り上げは右肩上がりで、3年足らずで5倍に増えたことになる。
日本でワイン鑑定家と呼ぶに足る唯一の存在である堀賢一さんが成長の原動力だ。パリのルグラン・グループ傘下で古酒やレア物などを専門に扱うワイン商「ヴァン・ラール・ピーター・ツーストラップ」のディレクター補を務めた前川大輔さん(ルグラン・ジャポン代表取締役)は「堀さんは現在、唯一のオーソリティ。堀さんが真正とすればだれも文句は言えず、それがTop Lotの安心感にもつながっていると思います」と評する。
堀さんは著作やアカデミー・デュ・ヴァン講師などの活動を通じて、広い人脈を持ち、信頼のおけるレストラン、ワインショップ、富裕なコレクターらから、しっかりしたプロヴェナンス(来歴)のワインを調達している。日々、Yahoo!オークションをパトロールし、疑わしいワインのリサーチを続けている。
「1990年代後半の赤ワインブーム以降にワインを仕入れ始めたショップのオーナーが、リタイアを前にコレクションを整理しようという動きがあります。コロナ禍でキャッシュフローが苦しくなってワインを売ろうというレストランもある。だれもが知る実業家のコレクターが高齢で飲めなくなったり、亡くなって遺族が処分する例もあります」
アジアの富裕層が日本の”埋蔵金”を発掘
この体験談からもわかるように、日本経済が世界を牽引していた1980年代から1990年代末にかけて、少数のコレクターたちが手の届く価格だった高級ワインを購入していた。Top Lotのオークションにはそうした時代のワインが登場する。輸入された多くのストックが”埋蔵金”として市場に眠っていると考えられる。
アジアの富裕層を顧客に有するルグラン・ジャポンの前川代表取締役が語る。「日本の気候では管理状態に不安があり、長い間二次市場に出回ることはあまりなかったと思います。ただ、最近は日本人のまじめな性格からも、市場は日本で管理されているロットは状態が良いと認識し始めているのだと思います」
アジアの高級ワインの中心は香港だったが、東京にシフトしつつあると見ている。政情不安が香港に影を落とし、円安とインバウンド需要は日本にプラスに働いている。香港は関税ゼロだが、日本もEPAの恩恵を受けて高級ワインの関税は無いに等しい。
「アジアの富裕層は拡大の一途をたどっている。ワイン需要も伸長している反面、自国の政策で高い関税がかけられている。こうしたアジアの富裕層が日本にワインを買いに来ていると実感します」と前川さんは明かす。
日本国内に目を向けると、ITやデジタルメディアで活躍する若い飲み手の台頭も注目される。50代-60代はボルドーの5大シャトーを2万円で購入していたが、40代は5万円になった。20代-30代は10万円が当たり前になっている。新しい富裕層は今の価格しか知らないのでついてくるという。
価格の変動はブルゴーニュではさらに顕著だ。1990年代後半のロマネ・コンティは当時、街のワインショップで20万円前後で購入できた。現在は400万円を超す価格で取引されている。そうしたワインがオークションに登場すると、ブルゴーニュの魅力にはまったIT企業の経営者らが飛びつく。需要と供給が一致して、高級ワインオークションが伸びている。
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