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シャンパーニュに対抗できるスパークリングワインの産地は、スペイン、オーストラリア、ニュージーランド、イタリアに細々と存在しているが、新世界で最も水準が高いのはカリフォルニアに違いない。その筆頭がルイ・ロデレールの設立したロデレール・エステートであることに異論はないだろう。
今では12のワイナリー、3つの販売子会社、商社、高級ホテルやゲストハウスを抱えるロデレールだが、LVMH傘下のモエ・ヘネシーのように資産が豊かだったわけではない。先代のジャン・クロード・ルゾーが、慎重な経営でメゾンを少しづつ拡大し、きらびやかなモエとは異なる謙虚なブランド・イメージを高めてきた。
息子のフレデリック・ルゾーも父の素養を引き継いでいる。シャトー・ピション・ラランドを2006年に買収した際は、銀行と相談して1晩で決断したという話を聞いた。借り入れに頼らない堅実な経営なのだ。そこに技術責任者ジャン・バティスト・レカイヨンの才能が加わり、高い名声と品質を維持している。
原点がヴィニュロンのジャン・クロード・ルゾーの挑戦
今ではメゾンの経営者はビジネス・スクールでMBAを取得したビジネスマンばかりになったが、1967年にルイ・ロデレールに入社したジャン・クロードの原点はヴィニュロン。モンペリエ国立醸造学校で醸造と栽培を学んだ。モンペリエのブドウ・ワイン高等教育研究院(IHEV)を首席で卒業したレカイヨンを後継者にリクルートしたのも、”優れたヴィニュロン”を求めていたからだ。
一方で、ジャン・クロードは堅実な経営者でもあった。1970年代後半に、カリフォルニアでスパークリングワインの適地を探したのは、社会党のミッテラン大統領による税負担の急増を心配したからだ。リサーチを続けて、カリフォルニアの最も北にあるメンドシーノ郡のアンダーソン・ヴァレーにたどり着き、1982年にロデレール・エステートを創設した。
アンダーソン・ヴァレーは、冷たい太平洋から入り込む霧が午前10時ごろまで居座る。春には気温が0度まで下がり霜の不安から逃れられない冷涼な産地だ。日中の気温差は最大で10度に達する。202haに8つの畑が広がる。土壌は風化した砂岩、泥灰岩、沖積堆積物。
20年前もサンフランシスコから2時間かけて訪れたが、ソノマ・コーストよりさらに涼しく、レッドウッドの大木が生い茂り、自然が豊かなのに驚いた。ランスより緯度が10度も高い北緯39度のこの地で大規模なシャンパーニュ造りを決断したのは大胆だと思った。整備された畑と取り囲む森を見て、その驚きを新たにした。
冷涼気候を探した先見の明
その後にリトライのテッド・レモンやサンタ・クルーズ・マウンテンのリースが、はるか北のアンダーソン・ヴァレーの畑に目を付けたことを考えると判断は正しかったとわかる。シャンパーニュと同じくカリフォルニアでも温暖化が進んでいる。
ロデレールはシャンパーニュのフォーミュラをそのままこの土地に持ち込んだ。一番搾り(キュヴェ)の果汁を区画別に醸造する。マルチヴィンテージのカルテットのリザーヴワインの10-15%は大樽で熟成されている。瓶内熟成期間は28か月。自社ブドウのみで仕込む。
プレステージのレルミタージュも自社ブドウのみ。ノンマロ。平均瓶内熟成期間は60か月間。3.9%のリザーヴワインは2016年から蓄積された大樽から使う。
従業員の85%が敷地内に居住
カリフォルニア州の続可能なワイン栽培認証と100%魚類に優しい認証を取得。リジェネラティブ・ヴィティカルチャー(再生型ブドウ栽培)に取り組み、コミュニティと密接に結びついて農園を運営している。従業員の85%が敷地内に住んでいる。洗浄水を再利用する保水地やソーラー・パネルも設置している。
ワインメーカーは1993年にモンペリエを卒業したアルノー・ワイリッチ。栽培と醸造を学び、ルイ・ロデレールで研修した縁でメゾンに入社した。2002年にロデレール・エステートに着任した。
「ロデレール・エステート カルテット ブリュット MV」(Roederer Estate Quartet Brut MV)はシャルドネ60%、ピノ・ノワール40%。洋ナシ、ゴールデン・デリシャス、ヘーゼルナッツ、クリーミーなムース、まろやかなテクスチャー。ち密さはルイ・ロデレールのコレクションに及ばないが、きめ細かく、リフレッシュさせられる。pHは3.13。ドザージュは8g/l。8万5000ケース。90点。
「ロデレール・エステート レルミタージュ ブリュット 2020」(Roederer Estate Quartet Brut MV)はシャルドネ52%、ピノ・ノワール48%。レモンオイル、ミント、濡れた石、輪郭のある酸、樽発酵からくる丸みとテクスチャー、生き生きした果実味がふくらみをもたらしている。ほのかに潮の飛沫、引き締まった余韻。ノンマロ。ドザージュは6.5g/L。2025年にディスゴージ(澱抜き)した。3850ケース。93点。
ロデレール・エステートはカリフォルニア・スパークリングのベンチマークとなった。メゾン的なスパークリングがあるからこそ、ウルトラマリンのようなグローワー的なスパークリングが生まれた。シャンパーニュと同じ構図だが影響をもたらしいている。
それだけではなく、栽培農家のモチベーションを上げた点も見逃せない。シャンパーニュのような格付けはないからこそ、ブドウの品質を上げることの大切さを広めた。これはアルノーも同意した。
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