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酸とミネラル アルト・アディジェのピノ・グリージョの魅力を探る

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 ピノ・グリージョは近年、急速に人気が高まっている白ワインの一つだ。カリフォルニアでは、シャルドネ、フレンチ・コロンバードに次ぐ栽培面積を誇る。イタリアでは、フリウリ・ヴェネツィア・ジュリアやトレンティーノ・アルト・アディジェなど北部産ワインの人気が高い。スイス在住のロビン・キックMWが来日したのを機に、アルト・アディジェの代表的なピノ・グリージョを試飲した。
 ピノ・グリージョはフランスでピノ・グリと呼ばれる。ブルゴーニュで発祥したピノ・ノワールの突然変異で、歴史的に同じ畑で栽培されてきた。ピノ・グリが最初の文献に登場したのは13世紀。フランスとハンガリーの間でブドウが行き来したため、中心的な産地アルザスでは、「トケイ・ピノ・グリ」と呼ばれていたが、ハンガリーの抗議によって、2007年からは「ピノ・グリ」の名称に統一された。イタリアのピノ・グリージョは冷涼な北部産地で造られ、20世紀初頭は人気がなかったが、1990年以降に、英国と米国で火がついた。
 「グリ」(灰色)という名前が示すように、ピンクから紫色を帯びた果皮を持ち、ほろ苦みを帯びている。アルザスのピノ・グリは酸が控えめで、色の濃い、フルボディのワインに仕上がる。ピノ・グリージョは色が淡く、フレッシュさがあり、フルーティなライトボディに仕上がる。手軽に造られたデイリーワインもあるが、上手に造られたものは、酸と心地よいミネラル感と柑橘の香りがあり、料理との相性も幅広い。世界的にヘルシー志向の料理が広がる中で、カジュアルで軽やかな味わいが受けている。
 イタリア最北の産地であるトレンティーノ・アルト・アディジェは、北はオーストリア、スイスと国境を接し、西はロンバルディア州、東はヴェネト州と接している。北のボルツァーノ自治県が、ドイツ語圏のアルト・アディジェ地方である。第一次世界大戦まではオーストリア・ハンガリー帝国の領土だったため、イタリア語とドイツ語の両方が公用語となっている。
 州の中央にアディジェ川が流れ、両側にドロミティ山脈が連なっている。アルプスに近く、ドロミテ渓谷を涼しい風が吹き抜ける。冷涼だが、昼間はかなり温度が上がる。石灰、火山性、花崗岩など複雑な土壌が広がり、幅の狭い峡谷の、標高1000メートルにも達する傾斜の厳しい畑でブドウが栽培されている。昼夜の温度差が大きく、ブドウは酸と豊かな香味を蓄える。ある程度の規模を持つ協同組合が支配的で、小規模なワイナリーとともに水準の高いワインを生産している。
 ロビン・キックMWは米国生まれで、フランス、英国、スイスで20年間にわたり、ワインビジネスに関わってきた。ワイン商、ワイン教育などを経て、現在はIWCなどコンクール審査員、コンサルタントなどをしている。2014年に合格した。スイス在住の5人のMWの1人。
 今回のブラインド試飲は4月半ばに、大越基裕ソムリエの「ディヴァン・クロ」の事務所で4人で行った。日本では、アルザスのピノグリの方が有名だが、ピノ・グリージョの酸があり、軽やかな酒質はむしろ、日本人の味覚にあうことが改めてわかった。価格も3000円前後と手ごろな範囲に収まっている。和食からスパイシーな料理まで、応用範囲の広いワインである。

 詳しいワインのコメントはこちhttps://www.winereport.jp/archive/914/

山本昭彦
南チロルとも呼ばれるアルト・アディジェは、ミシュラン星付きレストランが多く、景色がきれいで、ワイン観光が盛んな産地。ステンレスタンクで醸造されたクリーンでキレのよい白ワインは、もっと評価されていい。ともすれば重厚になりがちなアルザスのピノ・グリと比べると、花や桃の心地よい香りがあり、ライトボディなので、日本人の味覚に合う。カジュアルな和食やエスニック料理との相性がいい。日本では、フランスとイタリアの有名産地ばかり消費される傾向にある。地元消費の多いワインだが、うまく日本のライフスタイルに取り込めば、ワインライフが広がる。値段も3000円以内に収まるものが多くお手ごろ。

ロビン・キックMW
アルト・アディジェのワインは地元消費が多いが、輸出では米国が一番の市場。私がバイヤーをしていた時はヴェネトの方が知られていた。それはドイツ語も使われ、ワインの名前が覚えにくいせいもある。英国のワイン商で販売する時も、ミュラートゥルガウのように説明が必要だった。スイスでは、地理的な近さもあってよく飲まれている。残糖のあるニュージーランドのピノ・グリに対し、フレッシュ感がある点が、英国人には好まれている。醸造に樽を使うよりもステンレスタンクかフードルを使ったピュアなスタイルが好ましい。2015はよく熟したヴィンテージで、バランスがよく期待通りだった。

大橋健一MW
ピノグリは日本ではアルザスが標準になっているが、世界的にみると北イタリアが標準になっている。イタリアンの料飲店でないと、なかなか前面に出ないが、数年前には米国ではソーヴィニヨン・ブランより、ロンドンではシャルドネより、人気が高い傾向が見て取れた。辛口が基本で、おしなべてタイトなライトボディなところに好感が持てる。日本人は酸が好きなので、受け入れられる可能性はある。メタリックで還元的なイメージがあったが、樽を使う生産者もいた。パレットがゆるく、フィニッシュにまとまりのない生産者の評価は控えめだった。ゼスティで、シャープなスタイルのワインに高い評価を与えた。

大越基裕
世界的な料理の傾向もそうだが、ピノグリより抑制されているイタリアのピノグリージョの方が使う機会が多い。私がコンサルタントを務めるJALのビジネスクラスでも、以前に「トラミン」を使っていた。樽が強いだけのスタイルでなく、アロマにだけ頼らず、飲みごたえがある。全般的に、酸味とフレッシュ感があり、苦みや塩みも持つ。熟度が上がっても、ストラクチャーとフレッシュ感が保たれ、味わいに伸びがあるところが良い。一部後半のパレットが緩くなるものもあったので、その生産者は評価を控えた。料理とのペアリングでは、硬すぎるのがたまに難点だが、和食やフレンチでも素材のフレッシュ感を楽しむ様な料理では、苦みが目立ちすぎないものを選ぶ必要がある。アロマの個性が強いと料理と合わせにくくなるので、味わいで合わせるのがポイントになるワインのスタイル。
ロビン・キックMW

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