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ヴィノテーク2015年3月号掲載
全米屈指のレストランから、世界で最も高価なワインが盗まれる事件が、ワイン界を騒がせている。2014年のクリスマスに起きた。舞台はカリフォルニアのナパヴァレー。ヨーントヴィルの3つ星「フレンチ・ランドリー」から、DRCやスクリーミング・イーグルなど高級ワインばかり76本が盗まれた。このうち、73本はノース・カロライナ州で見つかり、回収されたが、景気回復でわくアメリカのワイン業界に様々な課題を残した。
派手な事件だけに、主要な新聞やテレビで報じられた。2か月前から予約を受け付けるフレンチ・ランドリーは、全米で最も予約のとれないレストランとして有名。世界最高のレストランに選ばれたこともある。9皿のお任せコースは295ドル。シェフのトーマス・ケラーは、ニューヨークの「パー・セ」でも3つ星を獲得し、東西両岸で3つ星を持つ初めての料理人だ。
iPadで見るワインリストは、世界最上の生産者をそろえている。カリフォルニア、フランスはもちろん、世界に目配せがきいている。持ち込み料は150ドルと高いが、大半のボトルの値段はそれを上回る。
現地報道によると、セラーから盗まれたのは、レアなワインばかりだった。ロマネ・コンティの2004から2010計14本、ラ・ターシュの1993から2010計19本、カルトワインのスクリーミング・イーグル5本が含まれる。ロマネ・コンティの市価は1万ドルを超す。スクリーミング・イーグルは3000ドル前後。被害額は市価30万ドルと発表された。狙われたのはオークションで高値をつけるようなワインばかり。犯人はかなりの知識を有する。大規模改修のために、半年間の休暇に入ったところに侵入された。警報装置は入っていなかった。
事件から約3週間後。ナパ郡保安官事務所は、被害にあったワインのうち73本を、ノース・カロライナ州のワイン・バイヤーから回収したと発表した。バイヤーは盗品とは知らなかった模様だ。ベイエリアでは近年、高級ワインの盗難が相次いでいる。フレンチ・ランドリーから3ブロックしか離れていない1つ星イタリアン「レッド」は、昨年1月の休暇期間中に、DRCを含む3万ドル相当のボトル計24本を盗まれた。手口が似ているので、関連を調べている。ワインは見つかっていない。レストランは駐車場や店内に、監視カメラ付きセキリュティ・システムを導入した。サンフランシスコ市内のワインショップも、2013年3月に鉄製のドアを破って侵入された。DRCだけが盗まれた。サンフランシコ南部のサラトガの1つ星レストラン「プラムド・ホース」も、同時期に被害にあった。
ロマネ・コンティの流通価格は最低でも1万ドル。正規輸入元のウィルソン・ダニエルズから入手できる愛好家はほとんどいない。芸術品やヴィンテージ・カーのような存在だ。中国を含めて、世界的な需要の高まりで、入手はますます困難になっている。ワイン泥棒は搬出に手間がかかる。大量なワインを短時間で盗み出すのは不可能に近い。フレンチ・ランドリーの犯行時も、トーマス・ケラー・シェフは同じ敷地内に住んでながら、犯行に気づかなかった。効率を考えると、転売して最ももうかるDRCが標的になるのは当然だろう。
米国のレストランの多くは、ワインリストをホームページで公開している。フレンチ・ランドリーのように、リストが充実している店は狙われる。日本で、ワインリストを公開しているレストランは少ないが、口コミで自然に伝わる。銀座周辺の星付きレストランは、注意が必要だろう。2010年に、中国の爆窃団が「天賞堂銀座本店」から3億円相当の高級腕時計約200点を盗む事件があった。世界で通用するロマネ・コンティも貴金属品と同じ価値を持つ。
この時計泥棒が捕まったのは、日本から郵送されてきた時計を調べた香港警察が、盗品と同じ製造番号だと確認したのがきっかけ。今回のワイン泥棒でも、ロマネ・コンティのシリアル番号が手掛かりになった可能性が強い。ウィルソン・ダエニエルズ社は事件後、シリアル番号を世界中のオークションハウス、ディストリビューター、コレクターのネットワークに連絡した。ケラーは事件後、「地元の捜査と連携している。盗まれたボトルが市場に現れたら、すぐにレッドフラッグがたつと確信している」と、Twitterで情報提供を呼びかけた。その通りになったのか、捜査内容はまだ明らかではないが、今回はいくつかの情報がうまくつながったのだろう。
しかし、今回は非常に幸運だったと見るのが妥当だろう。盗品はブラック・マーケットで処分されることが多い。3週間もたっているのに、米国内にあったことに驚いているワイン・バイヤーの声をネット上で見かけた。ロマネ・コンティ人気の高いアジア市場に流れれば、コレクターの手に落ちる可能性も高い。こうした盗品は偽造品を生む温床にもなる。
ルディ・クルニアワンの偽造ワイン事件でFBIの捜査に協力した世界トップクラスのワイン鑑定家モーリン・ダウニーは、Facebook上で事件後、偽造ワインの実例や問題のあるボトルの情報を得られるデータベースの必要性を主張した。3月には偽造ワイン対策サイトを立ち上げる。アメリカの西海岸で起きた事件だが、われわれ日本人にとっても無縁ではない。
肩書は当時のまま。
全米屈指のレストランから、世界で最も高価なワインが盗まれる事件が、ワイン界を騒がせている。2014年のクリスマスに起きた。舞台はカリフォルニアのナパヴァレー。ヨーントヴィルの3つ星「フレンチ・ランドリー」から、DRCやスクリーミング・イーグルなど高級ワインばかり76本が盗まれた。このうち、73本はノース・カロライナ州で見つかり、回収されたが、景気回復でわくアメリカのワイン業界に様々な課題を残した。
派手な事件だけに、主要な新聞やテレビで報じられた。2か月前から予約を受け付けるフレンチ・ランドリーは、全米で最も予約のとれないレストランとして有名。世界最高のレストランに選ばれたこともある。9皿のお任せコースは295ドル。シェフのトーマス・ケラーは、ニューヨークの「パー・セ」でも3つ星を獲得し、東西両岸で3つ星を持つ初めての料理人だ。
iPadで見るワインリストは、世界最上の生産者をそろえている。カリフォルニア、フランスはもちろん、世界に目配せがきいている。持ち込み料は150ドルと高いが、大半のボトルの値段はそれを上回る。
現地報道によると、セラーから盗まれたのは、レアなワインばかりだった。ロマネ・コンティの2004から2010計14本、ラ・ターシュの1993から2010計19本、カルトワインのスクリーミング・イーグル5本が含まれる。ロマネ・コンティの市価は1万ドルを超す。スクリーミング・イーグルは3000ドル前後。被害額は市価30万ドルと発表された。狙われたのはオークションで高値をつけるようなワインばかり。犯人はかなりの知識を有する。大規模改修のために、半年間の休暇に入ったところに侵入された。警報装置は入っていなかった。
事件から約3週間後。ナパ郡保安官事務所は、被害にあったワインのうち73本を、ノース・カロライナ州のワイン・バイヤーから回収したと発表した。バイヤーは盗品とは知らなかった模様だ。ベイエリアでは近年、高級ワインの盗難が相次いでいる。フレンチ・ランドリーから3ブロックしか離れていない1つ星イタリアン「レッド」は、昨年1月の休暇期間中に、DRCを含む3万ドル相当のボトル計24本を盗まれた。手口が似ているので、関連を調べている。ワインは見つかっていない。レストランは駐車場や店内に、監視カメラ付きセキリュティ・システムを導入した。サンフランシスコ市内のワインショップも、2013年3月に鉄製のドアを破って侵入された。DRCだけが盗まれた。サンフランシコ南部のサラトガの1つ星レストラン「プラムド・ホース」も、同時期に被害にあった。
ロマネ・コンティの流通価格は最低でも1万ドル。正規輸入元のウィルソン・ダニエルズから入手できる愛好家はほとんどいない。芸術品やヴィンテージ・カーのような存在だ。中国を含めて、世界的な需要の高まりで、入手はますます困難になっている。ワイン泥棒は搬出に手間がかかる。大量なワインを短時間で盗み出すのは不可能に近い。フレンチ・ランドリーの犯行時も、トーマス・ケラー・シェフは同じ敷地内に住んでながら、犯行に気づかなかった。効率を考えると、転売して最ももうかるDRCが標的になるのは当然だろう。
米国のレストランの多くは、ワインリストをホームページで公開している。フレンチ・ランドリーのように、リストが充実している店は狙われる。日本で、ワインリストを公開しているレストランは少ないが、口コミで自然に伝わる。銀座周辺の星付きレストランは、注意が必要だろう。2010年に、中国の爆窃団が「天賞堂銀座本店」から3億円相当の高級腕時計約200点を盗む事件があった。世界で通用するロマネ・コンティも貴金属品と同じ価値を持つ。
この時計泥棒が捕まったのは、日本から郵送されてきた時計を調べた香港警察が、盗品と同じ製造番号だと確認したのがきっかけ。今回のワイン泥棒でも、ロマネ・コンティのシリアル番号が手掛かりになった可能性が強い。ウィルソン・ダエニエルズ社は事件後、シリアル番号を世界中のオークションハウス、ディストリビューター、コレクターのネットワークに連絡した。ケラーは事件後、「地元の捜査と連携している。盗まれたボトルが市場に現れたら、すぐにレッドフラッグがたつと確信している」と、Twitterで情報提供を呼びかけた。その通りになったのか、捜査内容はまだ明らかではないが、今回はいくつかの情報がうまくつながったのだろう。
しかし、今回は非常に幸運だったと見るのが妥当だろう。盗品はブラック・マーケットで処分されることが多い。3週間もたっているのに、米国内にあったことに驚いているワイン・バイヤーの声をネット上で見かけた。ロマネ・コンティ人気の高いアジア市場に流れれば、コレクターの手に落ちる可能性も高い。こうした盗品は偽造品を生む温床にもなる。
ルディ・クルニアワンの偽造ワイン事件でFBIの捜査に協力した世界トップクラスのワイン鑑定家モーリン・ダウニーは、Facebook上で事件後、偽造ワインの実例や問題のあるボトルの情報を得られるデータベースの必要性を主張した。3月には偽造ワイン対策サイトを立ち上げる。アメリカの西海岸で起きた事件だが、われわれ日本人にとっても無縁ではない。
肩書は当時のまま。
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