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12年ぶり来日のアンセルム・セロス、ワイン造りの精髄を語る

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 カリスマ的なシャンパーニュのグローワー、ジャック・セロス当主のアンセルム・セロスとコリーヌ夫人が、2006年以来、12年ぶりに来日した。1度限りのセミナーで、7種のシャンパーニュを試飲しながらワイン造りの哲学を語る一方で、日本酒の蔵を回って研鑽を深めた。2回にわたりその模様を紹介する。まずは哲学から。
 2000年代初頭のことだ。アンセルムはカーヴで、エドワルド・ヴァレンティーニ、ヨスコ・グラヴナー、クロ・ルジャールらの空き瓶を指さしながら、「産地を変革するような造り手になりたい」と語っていた。今では彼自身がシャンパーニュを変えた。有機的な栽培、樽による醸造、ソレラシステム、単一畑のキュヴェ……多くのグローワーが彼の背中を追いかけ、テロワールを表現する方向に向かった。彼ほど大きな影響を与え、若い造り手を触発したグローワーはいない。総生産量5000ケース弱のシャンパーニュは、世界中で探し求められ、プレミアム価格をつけている。
 アンセルムの父ジャックは、1947年にアヴィーズに移住した。当初はランソンとルイ・ロデレールにブドウを売っていたが、64年に瓶詰を始めた。アンセルムは、ボーヌで醸造栽培技術者の資格をとって、74年にドメーヌを継承した。94年に「ゴー・ミヨ」の最優秀ワインメーカーに選ばれて世界の注目を集めるようになった。畑は7.5ha。アヴィーズを中心に、コート・デ・ブラン地区のクラマン、オジェ、メニルのほか、モンターニュ・ド・ランスのアンボネイ、グランド・ヴァレのアイとマレイユ・シュール・アイにピノ・ノワールの畑を有する。
 44ヴィンテージを造ってきたアンセルムは、引退を視野に入れて、息子ギョームにワイン造りの移譲を進めている。ギョームは2012年にドメーヌに戻った。父は2007年の醸造については、すべての工程の決定権を息子に預けた。現在は2世代でワイン造りをしている。ギョームは個人プロジェクトとして「ギョーム S」も生産している。
 「2007は2019年9月に発売される。マレイユ・シュール・アイ、アンボネイ、アイ、アヴィーズ、アイ、オジェ、メニルのブレンドになる。ギヨームが2007には色が必要だと言ったから、それでいいと任せた。自分の中から出てくるアイデアを大切にしろといつも言っている。彼が最も自由に働ける環境を残して、いかにきれいにバトンタッチさせるかを考えている」
 アンセルムは弟子にも、自分のやり方を押し付けなかった。それはワイン造りも同じ。栽培も醸造も自然体である。20年前のインタビューをひっくり返しても、彼の思想は一貫している。ライブで聞くと詩的な表現に耳を奪われるが、読み返すと、核にある哲学は変わっていない。
 「自然を支配するのではない。私は自然の成り行きを見守り、自然に使われるサーヴァントだ。いかに適切な手入れをするかをいつも自問自答してきた。行ったり来たりの繰り返しだ。44回造って、一度も同じものができたことはない」
 彼は2006年1月に来日した際、愛媛に飛んで自然農法の祖の福岡正信に会った。枕元で正座したまま2時間、余命は長くない農業家から話を聞いた。
 「伝わってくるものがあった。人間は自然の一部にすぎない。自然の中で何ができるのかを考えるべきだと。使命をもらったように感じた」
 アンセルムは固定化されたシステムを拒否する。ビオディナミは5年間試みて2001年に止めた。太陽や月の力を信じ、自然との共存共栄を目指すのが彼の農法だ。
 「理想のシャンパーニュとは、産地の個性を表現しているもの。シャンパーニュのオリジンはカルシウム炭酸塩からなる母岩のチョークだ。ワインに緊張感と甲高い声を与える。ブドウは土地から栄養素をくみ上げ、それが樹液に回る。土地は変わらないが、気候は変わる。職人的なシャンパーニュの造り手は何かを探しに行くのではなく、自然から与えられたものを表現する。干渉しすぎてはいけない。何をしなくてはならないかではなく、何をしなくていいかを考えるのだ」
 醸造過程でも、余分な干渉を避け、ブドウの個性をいかに目覚めさせるかを考えている。
 「醸造家はワインを造るのではない。助産婦のように、新しい生命が出るのを手伝う。といっても、放置するわけではない。放置しておけば止まるレベルを高次元に持っていくのが醸造家の仕事。私はほかの人には造れない独創性あふれるものを造りたい。私は亜硫酸やドザージュなどの技術は知っているが、それらは目的ではない。なぜそうする必要があるかを考える」
 とにかく自問自答の人である。おそらく答えは見えているのだろうが、考えることから創造がうまれるのに違いない。
 セロスのシャンパーニュを特色づけるのは、樽による醸造とそれに伴う酸化的なスタイルだ。野生酵母で一次発酵させ、ブルゴーニュから購入する228リットルのバリックでバトナージュさせながら熟成する。一部には新樽も含まれる。アンセルムは修業したブルゴーニュで多くの着想を得て、リューディのテロワール表現にも向かった。1994年にはアイのコート・ファロンを購入して、コントラストを造り始めた。グローワーが単一畑のワイン造りに本格的に取り組み始めたのは1980年代後半から90年代前半にかけてだ。今は小さな畑しか持たないグローワーたちが単一畑のキュヴェを作るのが普通になった。
 セロスのシャンパーニュの樽と酸化的なタッチの強さは議論を呼んだが、これは熟成によって統合される。ブドウの力が吸収すルのだ。最低でも3年、ゆっくりと5年待てば、酸化的なカーテンの向こうからテロワールが浮かび上がる。早く飲みすぎるとその真価には気づきにくい。これもブルゴーニュと同じだ。
 シャンパーニュ地方では、樽による醸造は1950年代ごろまで行われていたが、60年代以降は扱いやすいステンレスが主流になった。グローワーらは今や300リットルや500リットルの樽で醸造するようになってきた。樽醸造が復活したきっかけを作ったのもセロスのシャンパーニュである。
 「樽醸造するのは、酸素が必要だから。ブドウは生きているから呼吸をする。酸素は友人だ。空気がなかったら死んでしまう。一次発酵も熟成も酸化とも言える」
 次回は実際に試飲しながら、さらに話を深彫りする。
48年間つれそうコリーヌ夫人と。2018年5月9日
2006年1月の来日時
2003年6月にカーヴで。1990をア・ラ・ヴォレでデゴルジュ
全権を移譲しつつある息子ギョームと。2018年5月。
アヴィーズのカーヴで。2018年5月。

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