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アンジュワインの今、ドメーヌ・クロ・ド・レリュの挑戦

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 甘口ワインが売れにくなっている。レストランで仕事をしていて、つくづく感じることである。世の中の料理が、重いものから軽いものへ、よりヘルシーなものへと、求められているように、甘いワインから辛口のワインが求められている傾向にある。お客様にお勧めする時に、デザート・ワインは必要ないと言われたり、甘いイメージのあるアルザスが売れにくかったりする。
 そんな風潮と呼応するように、ソーテルヌと並ぶロワール地方の歴史的な甘口コトー・デュ・レイヨンでも辛口ワインの探求が始まっている。レイヨン川に接するサン・トーバン・リュイニェ村で新しい時代のワイン造りを模索するドメーヌ・クロ・ド・レリュを訪問した。

 オーナーのトマ・カルソンは、あまりヴィニョロンっぽくない。90年代のフランス映画に出てきそうなハンサムな風貌。ブルターニュのブレスト出身で、父、祖父とも船乗りだった。カリフォルニアのソノマヴァレーでディプロムをとり、シャンパーニュとプロヴァンスでコンサルティングの仕事をした。そして、自分のワインを造るため、2008年にアンジュの古いワイナリーを買い取って起業した。約20haの畑を所有し、ビオロジーを実践している。
 ここはアンジュ・ノワールと呼ばれる地質ゾーンに属する。シスト土壌に火山岩、礫、砂岩、石英が混じる南向き斜面の丘陵地に畑が広がっている。コトー・デュ・レイヨンを名乗れる場所で、多くの生産者は甘口ワインを造り、特級畑キャール・ド・ショームもすぐ近くに位置する。
 「甘口ワインは収量が低く、高価な割に採算があわない。世の中のニーズからほど遠い。でも、だからといって良い辛口ワインができないというわけではない」と、トマは辛口主体のワイン造りに照準を定めている。

 スタンダードの白ワイン「バスタンガージュ2016」はAOCアンジュのシュナン・ブランで、複数の区画から厳選してブレンド。キンモクセイや赤リンゴに蜂蜜の甘い香り。脂質が強く、膨らみがある。厚味のあるワイン。アンフォラで熟成した「エファタ2015」は、やや酸化香があるものの、より重厚感がある。年々、アンフォラの使い方が巧くなっていて、繊細な味わいがより表現されている。「デジラード2016」はこの地方では珍しいソーヴィニョン・ブラン。ピンとして洋梨のヒント、さっぱりした酸味があり、シスト土壌の味が残る。パリのソムリエ何人かにブラインドで出したが、みんなシュナン・ブランだと言った。

 赤は田舎風で、牧歌的な、親しみの持てる、誰もが楽しめるワイン。スタンダードの「アンディジェヌ2015」は、フワッと軽やか、フルーティーな赤。「尖った家」を意味する小山状になった標高300-400mの区画からのキュヴェ「エグルリー2015」は、「全房発酵したワインが好き」という彼の真骨頂。フローラルで、ジューシーな香り高いワイン。色々なタイプのカベルネ・フラン種のワインは存在するが、ベジタル香控えめで、ここまでまろやかで優しいタッチのワインは一つの理想系である。トップキュヴェ「マジェラン2014」は樹齢70年。アンフォラを使って熟成。より凝縮し、タニック、強い味で、大らか。このキュヴェは全房発酵でないため、よりグロゼイユのような果実のピュアな味わいを表現している。

 トマは評論家ミッシェル・ベターヌが書いた2014年3月28日の記事に憤慨していた。ソーミュールやサヴニエール、モンルイは高く評価する一方、アンジュの辛口シュナン・ブランを「悲劇的」と表現した。
 「ベターヌは、マロラクティック発酵(MLF)を行わないシュナン・ブランだけを重視し、MLFを行うアンジュは、不安定な二次発酵の所為で常軌の逸したバランスの悪いワインだと、こき下ろしている。フレッシュなリンゴ酸を高く保つため、亜硫酸を増やして、ミュスカデやサンセールみたいなシュナンを作ることが本当に正しいことなのか。クロ・ルージャールのフーコー兄弟は偉大なワインの造り手だと思う。しかし、彼らの与えた影響、特に白ワインにおいてMLFを行わないという手法はチョーク質のソーミュールであるからこそ良いのであって、原生岩土壌のアンジュにまで適応されるのはおかしい」
 確かに、ソーミュールのキレの良さ、繊細な味わいは、アンジュには見えない。ただ、火成岩特有の風味と厚味はこの土壌ゆえの個性である。この地を代表する生産者、パトリック・ボードワンやマルク・アンジェリら多くの生産者が自然なMLFを行ってワイン造りすることには意味がある。アルザスのウンブレヒトも、MLFしたリースリングにこそ、本当の真価が出ると言っているではないか。

 さらにAOCアンジュ法自体の不備をトマは嘆く。「ブドウ品種や、剪定方法に制限が多すぎる上、収量が高すぎる。そのため、職人的な、品質を追求するワイン造りが法律によって守られない。自由にワインを表現するため、マルク・アンジェリのようにヴァン・ド・フランスに格下げすることも検討中だ。ただそうすると、リシャール・ルロワが自分のキュヴェ名を変えなければならなかったように、『クロ』という表記が使えなくなるんだ。ドメーヌ名を変えなければならないので、売り上げが落ちてしまうかもしれない」
 実際、ルネ・モスや、ディディエ・シャファルドンら著名なこの地の生産者の多くも、AOCアンジューよりも自由な発想で、ヴァン・ド・フランス格のワインをフラグシップワインとしている。

 各時代には、それぞれの時代のトレンドがある。時代が甘口ワインを求めていない以上、辛口ワインへとシフトするのは時代の要求であるが、法制度がまだ生産者のニーズとあっていないのは残念である。イタリア・ワインのように、原産地呼称ワインよりテーブル・ワインの方が美味しい例が増えると、かえって混乱のもとなのだが……法制からも、フランスのジャーナリズムの中心からも目の敵にされている今のアンジュの生産者たちは、まさにそういう状態である。彼らが、法制をも変えてしまえるような、サッシカイアのような改革者となる事を祈ってやまない。
トマとマーケッティングを担当する妻のシャルロット。2人の夢は4人の子供達がみな協力してワイナリーをもり立てて行く事
畑は区画と品種で剪定方法が違う。強い樹勢のシュナンはコルドン、ソーヴィニョンはクルソン2つとバゲット1つのギュイヨ・プールサール、カベルネ・フランはダブル・ギュイヨで、ピノ・ドーニスはゴブレを実験中
60-70年代のボージョレ・ヌーヴォー熱にのって、ガメイが沢山植えられた。ブームの終了とともに、彼らは再接ぎ木(surgreffage)して、品種をガメイからシュナンに変えた。アンジューの生産者たちは、自分たちのアイデンティティーをとらえあぐねているのかもしれない
友人のマルク・アンジェリの畑で、彼のヒツジを囲いに戻す手伝いをするトマ。「マルクには色々と学んでいる。ゴブレ式の剪定や、ビオについて。ヒツジを放牧することもいずれはやりたいと思っている」とトマ
アンフォラを多数使っている。「地中にアンフォラを入れることも検討したが、地中だと振動の所為で破損する恐れがある」
船乗りの家系だから、エティケットも船を象ったもの

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