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気候変動の脅威 トリッキーな2017年の収穫 

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ヴィノテーク2017年11月号掲載

 8月から9月は世界の各産地から、収穫情報が飛び込んでくる。ここ数年は不安定な産地が多く、ニュースの連続である。2017年も、気候変動の影響が強いトリッキーなヴィンテージだった。熱波、雹害、霜害など、パンドラの箱を開けたように多くの災厄が各国の産地を襲った。

 カリフォルニアのソノマとナパは、地元メディアの報道によると、8月の熱波で収穫量が減るのは確実だ。37度を超す日々が続いた。ニュートンは光学式選果機を使用し、標高の高いプリチャードヒルのコンティニュアムですら焼けたプティ・ヴェルドの多くを捨てたという。イタリアは4月の霜害と夏の熱波で、収穫量は減少した。出来はいいものの、過去60年間で最少の収穫量が予測されている。ドイツは温暖で、平年より2週間早く、収穫を始めたが、春の霜の影響で量は減るとみられる。

 最も悲惨なのがフランス。農務省が8月末に発表した予想生産量は3720万ヘクトリットル。過去5年平均より17%少ない。1945年以降で最も少ない収穫量という予想が出ている。ボルドー、ジュラ、サヴォワ、アルザスが4月後半の霜の打撃を受けた。ボルドーは1961年以来の霜害である。シャトー・ボーダックのギャビン・クイニーの試算によると、サンテミリオン、コート・ド・ボルドー、ポムロールの衛星アぺラシオンは、80%以上の損害を受け、グラーヴやオーメドックも被害があった。2016年が2006年以来の豊作だったのと対照的で、値上がりは避けられないとの見方も出ている。ブルゴーニュのコート・ドールだけは、2009年以来の平年並みの収穫量を確保し、質量ともに恵まれた。造り手に笑顔が広がっている。

 温暖化は今のところ、プラスに働いている。シャンパーニュもオーブを中心に春霜で収量が減ったが、5月から7月にかけて温暖な晴天が続いたため、生育は早く、収穫は8月26日に解禁された。2003、2007、2011、2013と並んで、過去の歴史の中で最も早いヴィンテージの1つと数えられる。ルイ・ロデレールのクリスタルは2002から2009まで連続して生産されている。10年間で数度しか仕込めなかったヴィンテージ・シャンパーニュが、毎年のように生産できるようになったのだ。糖度が上がっているから、ドザージュも減った。ノンドゼの増加など、ワイン造り自体にも大きな変化をもたらしている。

 ボルドーもまた、アルコール度が上がっている。2015と2016のプリムールでは、アルコール度が14%に達したワインが珍しくなかった。ペトリュスが毎年のように14%前後なのは最初は違和感があったが、12%台が普通だった多くの生産者たちは、現在の気候を歓迎しているようだ。アルコール度の上昇は温暖化だけでなく、入念なキャノピー・マネージメントや土壌に合わせたブドウ樹の植え替えなども寄与している。ドミナスを所有するクリスチャン・ムエックスや、イングルヌックのコンサルタントを務めるシャトー・マルゴーのフィリップ・バスコールのように、カリフォルニアで得た教訓を生かす生産者も出てきた。

 だが、温暖化には負の側面も多い。発芽が早くなるため、今年のように4月の夜間に急激に気温が下がると、霜害が発生する。コート・ドールが4月20日前後に起きた霜に対処できたのは、2016年の失敗の反省に立っていたからだ。農家は朝4時に起きて、藁を燃やした。畑の温度を上げるとともに、煙の幕を作ることによって、もろくなった新芽が朝日に焼かれるのを防いだ。ブドウ畑が煙に覆われ、車も運転できないほど視界不良になった。若手生産者の投稿したFacebookやinstagramで幻想的な風景を見た。農民たちの団結と矜持を見せつけられた。

 ただ、人力での対処には限界がある。エル・ニーニョ現象もその一つ。2016年のチリは豪雨で大幅に収穫が減った反面、南アフリカは熱波と水不足で2011年以来、最小の収穫量となった。気候変動の影響を受ける雹害も防ぎようがない。カナダの研究者チームが6月に「ジャーナル・ネイチャー・クライメット」に発表したレポートによると、北米の雹を伴う嵐の被害は、将来は大きくなるという。1971-2000年と2041-2070年の雹を伴う嵐をコンピューターでシュミレーションしたところ、乾燥して冷涼な北米北部の平原ほど、春から夏にかけて起きる雹のサイズが大きくなり、頻度が高まるという予測結果が出た。

 北米の地理的、気象的な条件が、ヨーロッパにあてはまるかどうかわからないが、雹害によって、2016年までのブルゴーニュがコート・ド・ボーヌを中心に生産量を大きく減らしたのは周知の事実だ。雹には抜本的な対策がない。保険は高額につく。ブルゴーニュには上空をヨウ化銀でおおう雹対策のシールドを打ちあげる大砲が配備されたが、実効性に疑問が残る。畑に網をかけるのは現実的でなく、法で禁止されている。大ぶりの雹が一度降れば、1年間の努力は無に帰す。雹が降った後の、傷ついた樹の幹を見ると、畑に十字架を立てて、神の加護を求めた農民の気持ちがよくわかる。

 1980年代以来、地球の平均温度は約1度上昇した。現在のワイン産地の73%が2050年までに失われるという試算もある。我々のワインは危機に直面している。

肩書は当時のまま。

(C)NASA

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