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バック・トゥ・ザ・フューチャー、テルモ・ロドリゲスの挑戦(リオハ2018年6月)

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 リオハの畑は拡大の一歩をたどってきた。1985年に約3万8000haしかなかった栽培面積が、現在は約6万5000haに達している。栽培の構造では、シャンパーニュと同じく、生産者の80%が自社畑を所有していない。3つのサブリージヨンで栽培されるブドウをブレンドして、安定したワインを生産してきた。

 それでは、土地の個性を表現することはできない。90年代に盛んになった国際品種や現代的な醸造技術の導入に疑問を抱いたテルモ・ロドリゲスは、リオハのルーツに学び、再現することが、リオハが生き延びる道だと考えた。ボルドーで学び、ローヌやプロヴァンスで修行した彼だからこそ、リオハの特色を再発見したのだろう。ボルドーやシャンパーニュのビジネスモデルを模倣しても、彼らに対抗はできないと。

 我々が考えても、広大なアペラシオンから「リオハ」しか生産できず、熟成年数によって格付けするのでは産地の特色がうち出せないのは容易にわかる。ブドウの糖度を基準にするドイツや畑の格付けのないトスカーナ・キアンティのワインが、結局は畑や造り手の個性に基づいて取り引きされている世界の状況を見れば、リオハのこれまでの格付けには無理がある。

 テルモが幸運だったのは、ボルドー大醸造学部に留学中にパブロ・エグスギサに出会ったことだ。人を引き寄せる運も実力のうちだ。パブロはペトリュスで修行し、ナパヴァレーのドミナスをクリスチャン・ムエックスに任されたやり手である。一流の醸造家であり、マーケティングにも冴えを見せるパブロと、革命を先導するリーダーシップを有するテルモがタッグを組むことで、リオハを変革する最強のチームが出来上がった。

 2人は1994年、カンタブリア山脈のふもとの山あいランシエゴに「コンパニア・デ・ビノス・テルモ・ロドリゲス」を立ち上げた。テルモはレメリュリの刷新をめぐって父と意見が合わず、2010年に父が引退するまでは実家の家族ワイナリーに戻らず、ランシエゴのコンパニアを本拠に、2人の理想を追求した。打ち捨てられた畑を復興し、スペイン各地の土着品種を復活させるのが夢だった。

 ガリシア、リオハ、シガレス、リベラ・デル・ドゥエロ、トロ、アビラ、マラガ、アリカンテ、ルエダ。現在は9つの地域に拠点を築いて、ブドウを買って、土着品種のプロジェクトに取り組んでいる。パブロと話しているうちに思い出したのが、同じくペトリュスで修行したアルバロ・パラシオスである。アルバロがプリオラートで成功し、リオハに戻ってきた。これに対し、テルモは「フライング・ワインメーカー」ならぬ、「ドライビング・ワインメーカー」として各地を開拓した。

 リオハのプロジェクト、ボデガ・ランサガは1998年、初めての瓶詰めを行った。2009年、ランシエゴにワイナリーを立ち上げて、自社畑のブドウだけで瓶詰めを始めた。ランサガはオーガニック栽培する19haの畑から生産する。ランシエゴが15ha、ラバスティダが4.6ha。ランシエゴには35区画があり、粘土石灰土壌をベースに、表土の色は赤や白などかなり異なる。

 ランシエゴは600人しか住民のいない小さな村落だ。テンテヌブロの取材で一度来ていたが、ボデガの番地はないので、場所の見当がつかない。バルにたむろする男たちに、手ぶりで道を教えてもらう。目印のまったくない畑を突っ切り、モダンな建物が見えてきたときには20分遅れだった。数日前までログローニョのMWシンポジウムを仕切っていたMW協会のジェーン・マスターズ会長が先客だった。彼女はボルドーで生化学を修めた醸造コンサルタント。パブロと一緒に修行した仲だった。今や2人とも世界的なヒーローである。

 世界を飛び回る外交的なテルモに比べて、パブロは根っからの栽培と醸造の専門家。彼と畑を少し歩いただけで、フランスや新世界の畑とは異なる圧倒的なエネルギーが伝わってきた。一見すると何も手を入れていないように見える。株仕立て。畝の間には草が生い茂る。桃、アーモンド、オリーブなどの樹が、計画的にではなく、所々に植えられている。整然と手入れされたナパヴァレーやボルドーとは全く違う構図が広がるが、生き生きしている。まさに生物的多様性がここにはある。

 「これこそが畑だ」

 パブロが叫ぶのを聞いて、興奮が高まった。

 畑で接ぎ木するフィールド・グラフティングによって、収量過多の不適切なクローンに接ぎ木している。マルコタージュも行い、樹を増やしている。枝先を切りそろえるロニャージュもしない。ラルー・ビーズ・ルロワやシャルル・ラショーと同じだ。ブドウ樹の活力をいかに引き出すかに注力している。そして、混植された樹のブドウをそのまま醸造するフィールド・ブレンドによってワインは造られる。

 歴史をたどれば、リオハはそもそもフィールド・ブレンドだった。今ではテンプラニーリョの栽培比率が80%近いが、150年前は50品種が共存していた。テンプラニーリョ、ガルナッチャ、グラシアーノはもちろん、ビウラ、モスカテル、マチュラナ、グラン・ネグロなどが同じ畑に植えられていた。

 とはいっても、すべてを放置しているわけではない。ボデガは2014年から「アルトス・ランサガ」の畑を2つに分けた。その1つ「ラ・エストラーダ」は標高630m以上の、リオハで最も高い場所に位置する畑の1つ。カンタブリア山脈が目前に迫る0.64haの畑は北東向き。表土の浅い白い石灰岩土壌には、1940年代に植えたテンプラニーリョなど黒ブドウが植えられている。常に風が吹くから、ストレスを受けるブドウの実は小さい。不適切な台木を植え替え、昔の不適切なクローンにはフィールド・グラフティングをしている。

 4アイテムを試飲した。

 「ボデガ・ランサガ 2012」(Bodega Lanzaga 2012)は、オーガニック栽培する30区画をブレンドするスタンダードキュヴェ。85%はテンプラニーリョで、ガルナッチャ、グラシアーノ、ほかの品種をブレンドしている。コンクリートタンクで野生酵母により発酵。フードルと異なるサイズの樽で14か月間熟成する。新樽は使わない。香りは複雑で、ブラックチェリー、オレンジの皮、シガーボックス、オークはきれいに統合されて、スムーズなテクスチャー。凝縮した味わい、ミッドパレットの厚みがあり、フレッシュな酸が引き締めている。ランシエゴらしい標高の高さからくる冷涼感を表現している。焦点の合ったフィニッシュ。ランサガの畑の野生の力が伝わってくるような線の太いワインだ。1920本生産。92点。

 「ボデガ・ランサガ ラ・エストラーダ 2015」(Bodega Lanzaga La Estrada 2015)は、開放式桶で発酵しフードルで15か月間の熟成。3番目の単一畑。単独で仕込んだ初めてのヴィンテージ。標高は620m。ブラックベリー、黒茶、濃厚で、深みがある。骨格は太く、背骨はしっかりとしている。エネルギーあふれ、ヴォリュームたっぷりに広がりのあるパレット。リフレッシュさせられるフィニッシュ。94点。

 「ボデガ・ランサガ エル・べラード 2014」(Bodega Lanzaga El Velado 2014)は標高620mの0.92haの畑。「ベリケット」(Veriquete)という単一畑をさらに細分化した。ガルナッチャ50%にテンプラニーリョなどをブレンド。ボイセンベリー、なめし革、スモーキーで、紅茶の葉、ジューシーで、果実は凝縮している。際立った酸があり、バランスがとれている。伸びやかなフィニッシュ。94点。


 「ボデガ・ランサガ タブエルニガ 2015」(Bodega Lanzaga Tabuerniga 2015)はレメリュリに近いラバスティダの2.7haの畑から。グラシアーノ主体。プラム、レッドチェリー、オレンジの皮、エレガントでフィネスにあふれている。ジューシーで、リフレッシュさせられる。香りの発展がめざましく、ほっそりしたボディとキレのいい酸が調和している。エネルギーがみなぎっている。温暖化の進むリオハで酸とタンニンの強いグラシアーノの可能性を引き出した。95点。

 リオハのマーケティングの問題点は、数ユーロの安いワインと高級なワインが混在し、安いイメージがぬぐえないことだ。イタリアの一部のワインが、ボルドーのラ・プラスで高値で取り引きされているのとは大違いだ。テルモやマルケス・デ・ムリエタのワインは、品質を考えればひどく安い価格で取り引きされている。そうした状況も、2019年から導入される単一畑やヴィラージュによって、少しづつ変化していくだろう。時間をかけて、ブルゴーニュのように畑や村単位での格付けができていけば理想的だ。

 レメリュリがヴィラージュを表現するワインなのに対し、ランサガは単一畑を表現している。畑のエネルギーを損なわずに、ワインで表現している。畑はフィールド・グラフティングや細分化によって、さらに正確なテロワールを表現しようとしている。まだまだ進化しそうだ。

 伝統に回帰しているように見えるが、テルモのビジョンとワインはリオハの未来を予見している。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」なのだ。
 
 輸入元はOdex。
パブロの理想的な畑。あらゆる植物が生きている
パブロ・エグスギサ
カンタブリア山脈に近い「ラ・ストラーダ」畑。石灰が強い白い土壌

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