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質・量ともに充実した歴史的な2018年…シャンパーニュ収穫レポート (上)

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 2018年のシャンパーニュ地方は、例年にも増して活気にあふれていた。

 Tシャツ姿の収穫人が小気味よくブドウを摘み、いっぱいになった箱を、次々と畑の脇に積み重ねていく。トラックが箱を積み込んで、プレスハウス(圧搾所)を目指す。圧搾機がフル回転し、搾りたての果汁は大型のタンクローリーでメゾンに運ばれる。朝7時過ぎから、深夜まで。休む間もない日々が約2週間続く。

 どの生産者も「これまで経験したことのない年」と口をそろえ、満面の笑みを浮かべた。きれいな状態の糖度の高いブドウが多く収穫でき、量・質ともに充実した記録的なヴィンテージになりそうだ。1988年や2008年がグレイト・ヴィンテージだったように、「8」で終わる年は良作年になるというジンクスは維持されそうだ。

 2018年のヨーロッパは、収穫が早かった。シャンパーニュでは、例外的に認められた最も早い地域で、8月17日に収穫が始まった。過去15年間で8月の収穫は、5回目となる。フランス人が何より大切にする夏のバカンスを早めに切り上げて、収穫に備える生産者も多かったようだ。

 冬から春にかけて雨が多く、発芽はシャルドネが4月15日、ピノ・ノワールが17日、ムニエが18日と、通常より約1週間遅かった。その後、全般に暖かい気候が続いたことにより開花は早かった。シャルドネが5月30日、ピノ・ノワールが6月2日、ムニエが6月3日と、過去10年の平均より10日間ほど早い開花となり、発芽から開花までの期間が短かった。5月末から6月に発生した雹により、オーブ地方では大きな被害がでたが、シャンパーニュ全体としての被害は少なかった。

 夏は暑い晴天の日が続き、ブドウの成熟が早まった。乾燥したが、冬から春にかけて降った雨がチョーク土壌に保水されていて、ブドウの生育を助けた。収穫期まで天候に恵まれ、ブドウの腐敗は最小限にとどまった。糖度は全般に高い。

 ブドウの収穫のタイミングは、生産者の目指すスタイルにより異なる。優良な生産者は収穫前に何度も畑に足を運ぶ。糖度やpHといった数値分析に加えて、ブドウを食べて、数値だけでは測れない「味」の確認をする。

 糖度だけが指標ではない。8月末の雨で腐敗が急速に広がった2017年のトラウマから、今年は最低糖度に達したらすぐ、早めに収穫した栽培農家も目立ったが、ルイ・ロデレールやヴェルテュのパスカル・ドゥケのように、解禁されてもすぐに摘まなかった生産者もいる。アロマや味わい、果皮のテクスチャーをチェックし、タンニンの成熟度の上昇を待ったのだ。

 豊作はいいことばかりではない。収量が高いと、濃縮度が下がり、味わいが薄まるリスクもある。シャンパーニュには珍しく、AR Lenobleなど、夏にグリーンハーベストを行い、収量を下げた生産者も見られた。

 シャンパーニュの収量は高い。ヘクタール当たり1万キロは当たり前だ。それだけに、畑での選果は重要となる。これはあまり語られないが、高品質なシャンパーニュ造りには重要なポイントだ。

 ルイ・ロデレールとパスカル・ドゥケで、収穫をした際は、健康なブドウだけを摘み取り、1房の中に腐敗果がある場合、そこだけハサミで切り落とすよう指示された。シャンパーニュでは、ロゼ用のブドウ以外、選果台による選果は認められていない。大量のブドウを扱い、鮮度を保ち出来るだけ早く圧搾する必要があるため、選果台での選果は事実上不可能という実務的な理由がある。そのため、優良な生産者は畑で出来る限りの選果を行う。健全なブドウがなければいいシャンパーニュはできない。
 
 自社畑比率の高いルイ・ロデレールやレコルタン・マニピュランのドゥケのような生産者は別として、ブドウをメゾンに供給する栽培農家が畑で正確な選果を行うとは限らない。収穫人は通常キロ単位で賃金が支払われるため、ブドウの質より量を優先するインセンティブが働く。栽培と醸造が分離した新世界と共通しているが、以前から指摘されている問題だ。品質を重視し時間給で支払う生産者もいる。

 ルイ・ロデレールの2018年は、クリスタル、クリスタル・ロゼ、ブリュット・ナチュールを含めすべてのキュヴェを作る予定だ。さらに、マレイユ・シュール・アイ(Mareuil sur Ay)村のピノ・ノワールから造るコトー・シャンプノワ・ルージュ、今年初めて仕込むメニル・シュール・オジェ(Mesnil sur Oger)村のシャルドネから造るコトー・シャンプノワ・ブランが加わる。収量が減った昨年は、NVのブリュット・プルミエの品質確保のためクリスタルを作らなかった。

 2018は醸造長のジャン・バティスト・レカイヨンにとっても最高の年になりそうだ。

 「天気が良く乾燥した年は、土地の個性を最大限に表現する。今年はワインに土地の個性が出るテロワールの年だ。今年のように恵まれた年は、良い(great)ワインを造るのではなく、傑出した(exceptional)ワインを造らなければならない。」その言葉通り、ジャン・バティストは、例年にも増して時間と労力をかけて、さらなる高みを目指したワイン造りに取り組んでいる。

 自社畑の4区画とコトー・シャンプノワ用のワインで野生酵母による発酵を試みている。その土地の個性をより反映したワインを造るのが目的だ。野生酵母は発酵過程や味わいの予測がつきにくく、緻密な管理が必要となる。シャンパーニュのメゾンでは、1次発酵においても、発酵過程の管理がしやすい培養酵母を使うのが一般的だ。

 収穫は1年間の集大成だ。毎年、参加しているとその苦労がよくわかる。チームワークとロジスティックス、大勢の人を束ねるリーダーシップと戦略が鍵となる。ルイ・ロデレールでは、約600人の収穫人で244ヘクタールの自社畑の収穫をおこなう。大手メゾンでは、自社畑の収穫だけではなく、買いブドウの品質管理や契約農家との関係構築も重要だ。ジャン・バティストと一緒に契約農家や協同組合をまわったが、収穫中は何度も同じ農家を訪問し、ブドウの品質を確認していた。また、メゾン同士の横のつながりも強く、醸造長たちが盛んに情報交換する姿も目にした。そうした点も、シャンパーニュの安定した高品質につながっている。
ルイ・ロデレールのキュミエール村の畑(ビオディナミ認証)で収穫のお手伝い。Brut Nature用のピノ・ノワール。この日はビオディナミカレンダーで「フルーツの日」
ルイ・ロデレールの要となる3人。Jean-Baptiste Lecaillon(中央)、Gregoire Fauconnet(左)、Johann Merle(右)
ルイ・ロデレール所有のアイ村「La Villers」畑の収穫直前のピノ・ノワール。植えて20年経ち、今年初めてクリスタル・ロゼに使われる
今年は「8」が末尾のヴィンテージの試飲が行われた。リリースされたばかりのクリスタル2008、ヴィンテージ2008、1988、1978、ブラン・ド・ブラン1998、1978

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