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シャルトーニュ・タイエ  アレクサンドルの進化と挑戦

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 コート・デ・ブラン地区のアヴィーズ村にある「Les Avises」は、シャンパーニュ愛好家なら一度は訪れたい場所だろう。ジャック・セロスのファミリーが営むホテル&レストランで、開業当時からのシェフ、ステファンの料理と一緒に、希少なセロスのワインが楽しめる。セロス以外のシャンパーニュ、そしてフランスの他の地域のスティル・ワインのラインナップも素晴らしい。

 

 2013年の冬、Les Avisesで友人と食事をしていたとき、偶然、アンセルム・セロスの家族と大きなテーブルをシェアすることになった。

 

 その時、アンセルムが、ラベルのないボトルをずらりと並べ、真剣に試飲をしていた。幸運にも、私たちも一緒に試飲させてもらったのだが、これらは、彼の元でワイン造りを学んだ、シャルトーニュ・タイエ(Chartogne-Taillet)の当主アレクサンドルによる「レ・バール」(Les Barres)のヴィンテージ違いのボトルだった。接ぎ木なしのムニエから造られる単一畑のキュヴェだ。

 

 アレクサンドルがアンセルムの元で修行したのは有名な話だが、今でも、アレクサンドルと話すと、師匠への敬意を感じる。写真が苦手だと言うシャイな一面もあるが、自分のワインのことになると饒舌になり、情熱的に説明してくれる。他のシャンパーニュ生産者とも仲が良く、皆から愛される存在だ。

 

 アンセルムが道を切り開いたように、アレクサンドルも、その土地の個性を引き出したワインを造ることを一番の目的にする。アレクサンドルは、常々、ワインはテロワールを伝えるべきもので、自分はその伝達者であるだけだと熱心に語り、実際に、ボトルのラベルから、「シャルトーニュ・タイエ」という名前を取ることも考えていると話す。

 

メルフィ村のテロワールを表現

 

 シャルトーニュ・タイエは、ランスから北西に車で15分ほどの場所にある、メルフィ(Merfy)村に拠点を置く。この村は、畑の総面積は大きくないが(計45ヘクタール)、その中に多様な土壌と微少気候があり、シャルトーニュ・タイエは4分の1弱の10ヘクタールを所有する。メルフィは、15世紀から代々家族が畑を引き継いている、彼らにとって大事なテロワールだ。お隣りのサン・ティエリー(St. Thierry)村にも畑を持つ。

 

 1983年生まれ。アンセルム・セロスの元で修行した後、実家に戻り、2006年から自分のワイン造りを始めた。世界的なグローワー(レコルタン・マニピュラン、栽培醸造家)の人気の高まりの波に乗り、トップのグローワー生産者たちと肩を並べる存在だ。アメリカでは、ニューヨークのインポーターが早い段階から彼のポテンシャルに目をつけ、今では、その人気は不動なものとなっている。

 

メルフィ村は、600年以上前からワイン造りが行われていた歴史的な土地であるとはいえ、他のグラン・クリュやプルミエ・クリュの村に比べて知名度が低かった。格付けは84%。近年のシャンパーニュでは、こういった土地から意欲的で有能な作り手により、その可能性が模索され、脚光を浴びるワインが登場しているのも面白い。

 

 アレクサンドルの代になり、「Les Orizeaux」(ピノ・ノワール)、「Les Heurtbise」(シャルドネ)など、土壌やブドウ品種の異なる数々の単一畑から、区画ごとの個性を生かしたシャンパーニュを造り出している。シャンパーニュ造りでは2回発酵を行うが、その際、過程をコントロールし安定した結果を出すため、培養酵母を使うのが一般的だ。アレクサンドルは、一次発酵には野生酵母を使い、2次発酵は自分の畑から選んだ酵母を培養したものを使用する。これらがテロワールを表現する上で重要と考えるからだ。

 

 今回の訪問では、セラーで長い間眠っていた1996年と1978年のシャンパーニュも試飲した。過去の貴重なバック・ヴィンテージを試飲するのは、造り手が先代から引き継いてきた、当時のその土地を表すワインを体験できる特別なひと時だ。1978年は、開けたてから、アプリコットのコンフィ、ドライフラワー、糖蜜、マッシュルーム、濡れた土など、ふんだんな熟成香が溢れていた。

 

 当時はドサージュが多かったのか、焦げた砂糖のようなニュアンスも感じられ、魅惑的なリキュールのようだった。泡は少し舌に感じる程度だが、それが熟成の中にも、溌剌とした印象を与えていた。アレクサンドルもこの1978年の試飲は初めてとのことだが、その味わいに満足していたようだった。メルフィ村、そしてシャルトーニュ・タイエの底力を感じる一本だった。

 

過去から学び、新しいことに挑戦する

 

素晴らしい造り手が、トップであり続ける背景には、細部をファインチューンし続け、過去から学び、新しいことに挑戦する姿勢があると思う。アレクサンドルもその一人だ。今回の訪問では、そういった数々の試みや進化を目の当たりにした。

 

 例えば、細部を徹底する姿勢は、ドサージュで使うリキュールへのこだわりにも現れる。以前、ドサージュの記事で、異なるドサージュ量のシャンパーニュを比較し最適なグラム数を探るという、アレクサンドルとのドサージュの体験について触れた。

 

 今回の訪問では、NV「サンタンヌ(Sainte Anne)」のシャンパーニュを、実験的に異なる2種類のリキュールでドサージュしたボトルを比較試飲した。使用したリキュールは、一つは樽で熟成したもので、もう一つはステンレス・タンクで熟成したものだ。

 

 違いは微かながら明白で、少量であってもドサージュがワインに与える影響の大きさを実感した。意見を求められたが、サンタンヌが、シャルトーニュ・タイエのエントリーレベルのシャンパーニュであることを考えると、今オープンでアクセスしやすい、前者のボトルが良いと伝えた。後者は、若干、還元的であり、長い熟成を目指すワインであればこちらも良いだろう。

 

 そして、新しいロゼ・シャンパーニュの試作。アレクサンドルは、ブレンディングの能力に定評があり、それを活かしたブレンド手法によるロゼ・シャンパーニュも秀逸だ。2018年は、少量ながら、ムニエを4〜5日間マセレーションして造る、セニエ手法のロゼにも挑戦し、新たなスタイルのロゼ・シャンパーニュのベース・ワインを仕込んだ。ムニエらしいオープンで果実味を感じるワインだが、多少のタンニンによる骨格もあった。

 

 今年になり、大幅に改築した醸造所も完成した。例えば、ワインが重力により移動できる構造にし、パンピングの回数を最小限にするなど、さらなる品質の向上を図った。セラースペースも増築し、石から自分で選んで工事をおこなった。

 

 さらに、エキサイティングなニュースが、数年前に購入したアヴィーズ村の畑から新たなワインが生まれていることだ。その畑は、ピエール・ヴォードン(Pierre Vaudon)」の区画を含み、師匠アンセルムの所有する畑からほど近い場所にある。少量ではあるが、アレクサンドルが造るグラン・クリュ村のシャンパーニュには期待が高まる。2017年が初ヴィンテージ。2018年のベース・ワインを樽から試飲したが、グラン・クリュ特有の余韻の長さと深みがあり、ポテンシャルを感じるワインだった。

 

 これらの変化や新しいワインが完成して世の中に出るには、まだ時間が必要だ。すでに安定した品質の人気の高い生産者であるが、今後の進化からも目が離せない。

 

(文・写真:島 悠里)

 

シャルトーニュ・タイエの当主アレクサンドル
ドサージュの比較試飲
試飲のボトルの数々。中央は1996ヴィンテージ
様々な樽の大きさや種類を試していて、ヴァン・クレール試飲ではそれぞれの樽の個性にも注目した
新しく増築したセラーに使用した石
1978ヴィンテージ

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