- FREE
ポムロールを代表するル・パンなど3つのエステートを所有するワイン商「ティエンポン・ワイン」を夫のジャック・ティエンポンと共同経営するフィオナ・モリソンMWが、傘下のレートルとリフのセミナーを近年の気候変動を踏まえて行った。いずれも早くから楽しめる。ル・パンの濃厚なイメージにとらわれている人は見方を改めた方がいい。
フィオナはスコットランド生まれ。1994年にマスター・オブ・ワインを取得し、ワイン業界で40年間のキャリアを築いてきた。英国とベルギーの国籍を持つ。数々のMWシンポジウムを主催し、ボルドーワイン委員会の役員も務めた。ジェームズ・ビアード賞を受賞したライターでもある。ベルギーとボルドーを行き来している。
ベルギーのティエンポン家が1842年に設立したワイン商「ティエンポン・ワイン」のジャック・ティエンポンと結婚、ガレージワインの先駆ル・パン(ポムロール)、リフ(サンテミリオン)、レートル(コート・ド・カスティヨン)を管理する一方で、ワインの買い付けや販売も行っている。
ボルドーを隅々まで知り尽くし、世界のワイン業界で広く知られている。2023年にフランスで開かれた世界ソムリエコンクールの際は、各国のソムリエたちをル・パンに招いてもてなした。今回は先月、28人のMWが日本の産地を回った視察旅行に参加して来日した。
気候変動の課題をレクチャー
ラフルールの決断を称賛
フィオナは試飲に先立ってMW的な視点で、ボルドーの気候変動の課題を解説した。20年間で気温は1度から1.5度上がった。熱波と干ばつに耐える栽培手法が求められている。仕立てを高くして、日照を減らす樹冠管理、土壌の水分蒸発を防いで生物多様性を保つ被覆作物、乾燥に耐える台木選びの重要性を指摘した。
醸造面ではタンニンと果実のフレッシュ感が重要だという。低温で発酵する穏やかな抽出、SO2の低減、新樽比率の削減、大型の熟成容器の採用などによって、軽やかな果実とタンニンが少なくて飲みやすいワインが増えている現状を語った。
ペトリュス、ル・パンと並ぶポムロール3傑の1つシャトー・ラフルールが昨年8月、灌漑の導入など気候変動の対策を提言してポムロールを離脱して、ヴァン・ド・フランスを名乗ることを表明した。
これについては、「灌漑が禁止されているのは、灌漑が高い収量につながると考えられたから。(気候変動の下で)灌漑は必要なものになっている。ラフルールの行動は勇気がある。発表後、すぐに連絡した。個人的にはすばらしいと思う。大きな変化をもたらす。一方で知名度の低い造り手には経済的リスクもある」と述べた。
ティエンポンのエステートではカリフォルニアのような夜間収穫はブドウが見えないのでしない。日が昇って6時半から7時に収穫を始めて午前中に終える。将来はブドウを冷やす冷蔵室の設置などを検討しているという。
ヴァリューなコート・ド・カスティヨン
試飲したのは、2016年にコート・ド・カスティヨンで取得したレートル(L'HETRE)とサンテミリオンのリフ(L'IF)。レートルはコート・ド・カスティヨンの斜面下部の粘土石灰質土壌。ジャックの甥のマキシム・ティエンポンが運営している。ドゥニ・デュブルデューの後継者で醸造学博士のアクセル・マルシャル教授を2020年にコンサルタントに迎えた。
メルロー85%、カベルネ・フラン15%。エコセールの認証を取得している。コート・ド・カスティヨンの地価はヘクタールあたり2万8000ユーロ。200万ユーロを超すサンテミリオンのプラトーより安い。セミヨンが多めの白ワインを造る計画があるという。ボルドーでは白ワインが増えている。
「ラ・レゾン・デートル 2023」(La Raison d'Hêtre 2023)はレートルのセカンドワイン。ダークベリー、ワイルドベリー、ミント、明るい果実味、繊細な酸味。骨格はしっかりしている。やや厳格なニュアンスだが時間と共にバランスがとれてくる。89点。
「レートル 2023」(L'Hêtre 2023)はメルロー95%、カベルネ・フラン5%。ダークベリー、プラム、リコリス、芳醇で凝縮している。チョーキーなタッチがあり、しっかりした骨格。91点。
「レートル 2020」(L'Hêtre 2020)は柔らかい口当たり、きめ細かいタンニンがシームレスに溶け込んで調和している。ボイセンベリー、プラム、黒鉛、しっかりした構造で深みがある。時間とともにバランスがとれて洗練されたフィニッシュにつながる。7200円。93点。
レートルはフィオナが自宅で楽しんでいるワイン。コストパフォーマンスの高いデイリーワインだ。
リフはラ・プラス・ド・ボルドーで取り引きされている。ジャックの自宅で行われるプリムール試飲では、ル・パンの前に供される。ティエンポン家が大恐慌のために売却せざるを得なかったトロロン・モンドからバルド・オーに向かう小道に位置する8ha。ジャックが子どもの頃に遊んでいた場所だという。
メルロー75%、カベルネ・フラン25%。ジャックが2010年に取得した。26か所の穴を掘って地質調査をしブドウ樹を植え替えた。パヴィ・マカンの支配人ニコラ・ティエンポンの息子シリルが醸造を担当している。
「リフ 2020」(L'IF 2020)はメルロー84%、カベルネ・フラン16%。レッドベリー、ブラック・ラズベリー、ヨード、黒鉛、純粋で洗練された果実味、しなやかなタンニン。肉厚で焦点が定まっている。丸みがあり官能的。調和のとれた余韻が続く。4万5000円。95点。
「リフ 2019」(L'IF 2019)はメルロー75%、カベルネ・フラン25%。ブラックチェリー、リコリス、鉛筆の芯、香り高く、チョーキーなタッチのタンニン、骨格がしっかりとあり、バランスがとれている。30分で開く。ル・パンより開放的でアプローチャブル。94点。
MWの研修旅行では塩山の98WINEsがお気に入りでワインを2本購入した。ル・パンを返礼に送るという。
今年に入って、スミス・オー・ラフィットのダニエル・カティアール、アルザスのピエール・トリンバック、ル・パンのコンサルタントだったミシェル・ロランら友人が相次いで亡くなった。悲しそうな表情を見せた。
レートルの独占輸入元はラック・コーポレーション。
購読申込のご案内はこちら
会員登録(有料)されると会員様だけの記事が購読ができます。
世界の旬なワイン情報が集まっているので情報収集の時間も短縮できます!