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10年熟成のクヴェヴリ白ワイン、ジョージアの伝統を引き継ぐ志

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 ジョージアでクヴェヴリを使う伝統的な製法のワインは、全体の20%にすぎない。ヨーロッパ式の製法で造るワインの方が、需要が高い。生産者たちがそれでも、伝統的な製法を続けるのはなぜか?初めて訪問した人間が抱いた基本的な疑問である。
 こうした質問をぶつける相手は、規模の大きい生産者の方がいい。小規模な生産者はクヴェヴリで造る以外の方法を知らないだろう。納得できる答えが返ってくるとは思えない。主要産地の東部カヘティ地方最大の都市テラヴィに本拠を置く「テラヴィ・ワイン・セラー」(TELAVI WINE CELLAR)で、創業者のズラブ・ラマザシュヴィリに聞いてみた。
 カヘティは、北にコーカサス山脈が連なり、アラザニ川の両岸に主要な産地が広がる。テラヴィは、「マラニ」(Marani)ブランドで知られる。マラニとはクヴェヴリを埋めたセラーをさす。生産量は500万本で中規模。330ヘクタールの畑を所有する。多数のステンレスタンクが並ぶさまは、カリフォルニアの大規模ワイナリーを思い出させる。一方で、40ものクヴェヴリを埋めたマラニもある。それだけで、計10万リットルの生産能力があるという。
 ヨーロッパ式製法のワインだけでも事業はできそうなのに、なぜ伝統的な製法を続けるのか?
 彼の答えは明快だった。
 「クヴェヴリによるワイン造りは、長期間のマセラシオン、温度を一定に保てるなどの利点があるが、結局のところは哲学の問題なんだ。日本が昔の文化を大切にするように、8000年の伝統を引き継がねばならない」
 クヴェヴリで造った白ワインには、揮発酸が高かったり、フェノールがバランスを欠いていたりする例も時に見られる。だが、マラニのワインには顕著な欠点が見つからない。産業的と言われるかもしれないが、ジョージアワインの入門編としては悪くない。ここでは、20種近いワインを試飲したが、クヴェヴリの白ワインはきれいに熟成することがわかったのは収穫だった。
 「マラニ ストラペゾ 10クヴェヴリ 2007」(Marani Satrapezo 10 kvevri 2007)は、カヘティ地方の主要品種ルカツィテリ(Rkatsiteli)で造る。コンドリ・ヴィンヤードのブドウを使い、スキンコンタクトを行い、手でパンチングダウン。20-25日間のマセラシオンの後、小樽でさらに10か月間、熟成した。名前はクヴェヴリ10基のみ造ったことからつけた。生産量は6004本。
 深い黄金色、ドライなプラムやアプリコット、緑茶の葉、カスタードクリーム、フェノールはきれいに溶け込んで、骨組みを構成し、酸はまろやか。冷涼感を感じさせ、香りの華やかさよりも、しなやかなテクスチャーの美しさが際立っている。調和のとれた味わいで、いまだに生き生きしている。還元的に造るクヴェヴリとバリックのマイクロ・オキシジネーションの効果がマリアージュされている。古いルカツィテリの試飲は初めてだったズラブは、10年も美しく熟成したのは、スキンコンタクトからくるフェノールのおかげだろうという。91点。
 試飲している最中に、思い出したのは、自然派の祖である故マルセル・ラピエールの言葉だった。
 「自然なワインを造るためには、ワイン造りの科学を知る必要がある」
 この白ワインは、クヴェヴリを使っている部分については、野生酵母で発酵し、亜硫酸を添加せず、人為的な介入を排している。純粋な自然派とは言えないかもしれないが、伝統的な製法を現代に継承しようという造り手の志がまずある。そこに、現代的な醸造を付け加えたから成功したのだろう。自然なワイン造りと現代的な醸造は、相反するものではない。
40ものクヴェヴリを埋めたマラニ
多数のステンレスタンクが並ぶ
ワインメーカーのズラブ・ラマザシュヴィリ

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