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豪ジル・クックMWが造る、抑制のきいた南オーストラリアのシャルドネとグルナッシュ

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 マスター・オブ・ワインはコンサルタント、教育家、ジャーナリストなど様々な仕事についているが、ワイナリーの経営者もいる。オーストラリアやニュージーランドに多い。スコットランド出身のジル・クックMWもその一人。ファーガル・ティナンMWと共同で「シスルダウン・ワイン・カンパニー」(Thistledown Wine Company)を設立し、南オーストラリア州で、グルナッシュ、シャルドネ、シラーの個性的なワインを生産している。
 ジルは英国のワイン商「アライアンス・ワイン」の開発部長を務めていて、長年、ワインの売買やマーケティングを行ってきた。ワイン造りだけでなく、パッケージングにも長けている。ワインのネーミングとラベルに明確な主張がある。
 ベーシックなレンジの「グレート・エスケープ クール・クライメット・テクスチュラル シャルドネ アデレード・ヒルズ 2015」(Great Escape Cool Climate Textural Chardonnay Adelaide Hills 2015)は名前だけで味わいが想像できる。高めの酸があり、まろやかなテクスチャー、引き締まった味わいで、緊張感がある。アデレード・ヒルズの冷涼感をピュアに表現している。アルコール度は13%。90点。
 赤ワインもわかりやすい。「カニング・プラン ホール・ベリー シルキー・フルーツ シラーズ ラングホーン・クリーク 2015」( Cunning Plan Whole  Berry Silky Fruit Shiraz Langhorne Creek 2015)は、除梗したシルキーな味わい。「ずる賢い策略」とはバロッサヴァレーやマクラーレン・ヴェールより熟すのが遅いラングホーン・クリークのシラーで造っていることをさすようだ。凝縮した果実はあるが、スムーズなテクスチャーで、フレッシュ感がある。89点。
 「ソーニー・デヴィル オールドヴァイン・ゴージャス・グルナッシュ バロッサ・ヴァレー 2015」(Thorny Devil Old Vine Gorgeous Grenache Barossa Valley 2015)はグルナッシュの名手とうたわれるジルが、単一畑の樹齢100年の古木で仕込んだ。ピノ・ノワールに通じる果実の純粋さがあふれんばかりで、躍動感があり、ジューシー。調和がとれている。グルナッシュがフランスで「南のピノ・ノワール」と呼ばれるわけがわかる。ソーニー・デヴィルとはモロクトカゲのこと。90点。
 オーストラリアは動物キャラクターラベルでヒットを飛ばした国だが、シスルダウンもユーモラスな動物ラベルを出している。象をあしらった「ジ・アンフォゲッタブル グルナッシュ・シラーズ・マタッロ ラングホーン・クリーク 2016」。ラングホーン・クリークのシラーズで仕込んだ「ジ・オポチュニスト 2016」、カベルネ・ソーヴィニヨンで仕込んだ「ザ・ピュアリスト 2016」はそれぞれ、鷹と鶏をあしらっている。「ザ・コルテザン リースリング クレアヴァレー 2016」は鶴がモチーフ。コルテザンは「高級娼婦」の意味だが、気品のある味わいだった。こうしたキャラクターは文字による説明より鮮明に、消費者にイメージを植え付けられる。オフトレードでは重要な要素だ。
 トップレンジはうってかわって、詩的なラベルにボトリング番号が入っていて、シリアス。「スイルヴェン シャルドネ アデレード・ヒルズ 2016」(Suilven Chardonnay Adelaide Hills 2016)は白桃、青リンゴ、白コショウ、強烈な果実と際立った酸、タイトだが、まろやかさがあり、生き生きしている。焦点のあったフィニッシュ。発酵は中樽とコンクリートエッグで。世界が注目の冷涼産地アデレード・ヒルズから、マイケル・ヒル・スミスMWのショウ・アンド・スミスに負けないシャルドネをものにした。92点。
 「バッチェラーズ・ブロック エベニーザー シラーズ バロッサ・ヴァレー 2015」(Bachelor's Block Ebenezer Shiraz Barossa Valley 2015)は黒コショウ、カルダモン、スターアニス、黒糖、アーシーで、グリップのあるタンニン、たっぷりとした果実があるが、テクスチャーはなめらか。ジューシーで、みずみずしい。凝縮感に流されずエレガンスを保っている。全房発酵比率は35%。92点。
 フラッグシップはやはりグルナッシュ。「ザ・ヴァガボンド オールドヴァイン グルナッシュ ブルーウィット・スプリングス マクラーレン・ヴェール 2016」(The Vagabond Old Vine Grenache Blewitt Springs McLaren Vale 2016)はしなやかなタンニン、ダークチェリー、なめし革、スモーキーで、鉄っぽいミネラル感をはらみ、凝縮感はあるが、ジューシーなフレッシュ感、洗練されている。ミッドパレットの厚みがあり、正確なフィニッシュ。ドライ・ファーミングする樹齢70年のブッシュヴァインから。全房発酵比率は35%。パンチョンとコンクリートエッグで熟成。92点。
 冷涼な産地のブドウを手摘みし、醸造には全房発酵を部分的に導入し、コンクリートエッグや中型の樽も使用し、抑制された味わいに仕上げている。未輸入なのがもったいない、可能性を秘めているワイナリーだ。

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