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「Decanter World Wine Awards 2025」で金賞を受賞したNIKI Hills Wineryの「Chardonnay 2023」について、国際事業部の近藤美伸さんが苦労したワイン造りについて寄稿を寄せてくれた。
2023年は8月以降も高温の日が続き、夜の気温も下がらなかった。成熟が進み、糖度は上がらなかったが酸の落ちが早かった。糖度が収穫の基準に達する前に収穫せざるを得なかった。
栽培責任者の倉岡佑樹さんは「通常は8月に収量調整のための摘果を行うが、シャルドネなど酸の豊かな品種も多くは摘果を行わずに、例年より多く房を残した」と明かす。房を多く残して、果実の成長・成熟を遅らせて、酸が落ちるのを食い止めようと考えたのだ。
雨の多さにも悩まされた。年間降水量は498ミリと、この地でブドウ栽培を始めて以来最も少なかったが、味の凝縮感が出るヴェレゾン後の8月以降に雨が多かった。9月の降雨量は146ミリと過去最多になった。
倉岡さんは「9月に大雨が降ってブドウが水分を含んだ。食したところ味がぼやけているな」と感じたのを鮮明に覚えている。高校まで東京育ちの30歳。一筋縄ではいかないブドウ栽培にやりがいを感じ、農業にのめり込んでいる。「難しい年だったが、醸造の技術と努力で造り上げた」と謙虚に語る。
2023年のケルナーは、酸が高いのにpHも高かった。コンサルタントをしていたニュージーランド人のウィズリントン真理子さんは、南アフリカ・エルギンにベースを置くリチャード・カーショウMWにアドバイスを求めた。マロや補酸をするという解決策が南アフリカからヴォイスメッセージで届いた。醸造チームは試行錯誤を重ねて、厳しいヴィンテージと戦った。
ウィズリントンさんはニュージーランドのワインメーカーから教わった発酵の技術も生かした。シャルドネの発酵にはステンレスタンクと樽を使い、発酵温度はステンレスタンクが13度、樽が18度と低く抑えた。アロマが豊かでエステル香があるのは、ステンレスタンクによる低温発酵と、通常はソーヴィニヨン・ブランで使う培養酵母のXarom、Deltaと少量のVL2を使用したからだ。
樽やタンクから澱を引き抜き、それを酸化させてタンクの上からかけるという、テクニックも使った。「テクスチャーをもたらし余韻を長くするのに効果的だった」という。
一方、糖度が伸び悩み、補糖をするかどうかという議論も交わされた。オーナーの石川和則さんと醸造責任者の太田麻美子さんは最終的に、テロワールをニュートラルに表現するため補糖補酸は行わないという意思を貫いた。
そのため、糖分を凝縮させてアルコール度を上げるための、「冷凍果汁仕込み」に挑戦した。これは圧搾したブドウ果汁を凍らせて、糖度の高い果汁のみを発酵させる手法。先に水分が凍った氷を取り出し、濃縮した甘い液体が凍らないうちにポンプで取り出す。
シャルドネ2023の生産量は4000本と例年の半分となったが、その品質はメダルで報われた。
「2023年のワインは厳しくなると思っていた。正解がない中、私たちの試行錯誤や努力が報われた気がして嬉しい」と、太田さんは受賞を喜ぶ。
南アフリカとニュージーランド。日本の裏側の南半球のワインメーカーたちの知恵と技術が冷涼な北海道の地で造るワインに生きている。テロワールを引き出すワイン造りに国境はない。
「ニキヒルズ シャルドネ2023」(NIKI Hills Chardonnay2023)
よく熟れたメロン、アプリコット、パイナップル、フレッシュなハーブ。ワインに宿る太陽を感じる。ヴァニラのヒントとトースト。ほんのり塩味のミネラル感。クリーミーなテクスチャーに、吟醸のニュアンスがフレッシュさを与える。穏やかで広がりのある酸。トロピカルフルーツの長い余韻。余市ブランド豚「北島豚」のソテー・マスタードソースに焼きアスパラガスを添えて。6600円。
Text&Photo by 近藤美伸






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