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アルノー・アントとブノワ・アント。コシュ・デュリと並ぶ白ワイン造りの極北でありながら、少量生産で知られざるカルトなドメーヌの日本上陸が始まった。ルグラン・パリで両方を取り扱うアント家のバイヤー、ルイ・アントが初来日し、アルノーとブノワ兄弟のワイン造りの全容を公開した。世界でも稀なセミナーに出席して、妥協なき栽培と醸造から生まれるワインの奥深さに改めて魂が震えた。
クロ・サンテューヌからインスピレーション
アルノーのワインとの関わりは母方の祖父カミーユ・ダヴィドから始まる。ボーヌで栽培醸造を学んで、理学療法士を目指していたが試験に2回落ちた。1991年に結婚したマリー・オディール・テヴノの父フィリップ・テヴノからムルソーのドメーヌを引き継いでほしいと頼まれ、3.5haからワイン造りを始めた。
ダヴィドから教わった時間をかける醸造「2度の冬を超す熟成」を行ったものの、当初はバトナージュして豊かなワインを造っていたが、酸や明確な輪郭を重視する抑制的なスタイルに変わった。トリンバックのクロ・サンテューヌからインスピレーションを受けたと言えば、目指したスタイルが想像できるだろう。
ワイン造りの転換には2つの転機があった。1つは猛暑の2003年に始まった気候変動。リッチなワインの限界を感じ、精緻で緊張感のあるスタイルに向かった。もう1つはフランソワ・コシュとの出会い。穏やかな圧搾、丁寧な澱引きを学んで、果汁の質を上げた。
アルノーはビジネスや評論家には興味のない職人だ。畑のテロワールを妥協せずに表現するため、栽培と醸造を細部までセンチ単位で煮詰めている。その結果、緊張感があり、透明感に包まれて、水晶のようにクリアーなワインが生まれる。その魅力に惹かれて、1万数千本しかないワインを探し求めるプロが世界にいる。
畑ではマサル・セレクション(大量選別)を行い、クローンの違いを学んで2014年に有機認証を取得した。ソラマメ、スペルト小麦などの被覆作物を植えて、土壌の圧迫を抑えるキャタピラー式のシャニアールで薬剤を散布している。休閑地に生け垣や樹木を植えて、生物多様性を保っている。剪定は樹液の流れを変えるギュイヨ・サンプルで行っている。
一足先にリジェネラティブな農業
ガラス容器のワイングローブ100%で醸造
オーガニックやサステナブルを超えて、リジェネラティブ・ヴィティカルチャー(再生型農業)に向かう造り手が増える中で、アルノーは時代の一歩先を行く農業を行ってきたのだ。
こうした栽培醸造はムルソーやシャサーニュ/ピュリニー・モンラッシェの優れたヴィニュロンは、多かれ少なかれ取り入れているが、アルノーの最も独創的な醸造手法はガラス製容器のワイングローブの採用だ。
ガラス容器に入れた水の口当たりが好きだったのがきっかけで、ボルドーのスタートアップ企業と共同で2017年から開発した。それまで使ってきたフードルからワイングローブに切り替え、2023年から100%ワイングローブで醸造している。
ワイングローブは丸型のガラス容器。ここで使うのは220Lのもの。醸造、熟成に使う。ガラスは不活性でバクテリア汚染がない。純粋で均質、調和のとれた熟成ができる。酸素交換が少ないためSO2は少量ですむ。補酒も少ない。洗浄が楽で水を節約できる。セラミック容器のクレイヴァー同様に持続可能性が高い。
元ルフレーヴのピエール・ヴァンサンやシャンパーニュのルクレール・ブリアンらが部分的にワイングローブを使用しているが、全量がワイングローブなのはアルノー・アントだけだろう。ピエールは「フィネスとテクスチャーが素晴らしい」とアントを評価している。
細かい技術の積み重ねがアルノーのワインの正確さとエネルギーを生んでいる。忘れてならないのは収穫のきめ細かさだ。4.5haの畑をアルノー夫妻、BTS(栽培醸造上級技術者)資格を有する長男ピエール、3人のスタッフの6人がケアしている。ヘクタールあたり1人以上のスタッフが畑を見るドメーヌはごく少ない。
ロマネ・コンティしのぐきめ細かい収穫
区画ではなく畝単位でテロワール表現
収穫時は3-4週間前から採取したブドウを食べて、熟度と酸度のバランスで収穫日を決める。20人を超す収穫人を動員して、畝単位で摘み取る。最も広いムルソー・アン・ロルモー(Meursault En l'Ormeau)は2021年、樹齢、土壌、位置を考慮しながら2ha未満のクリマを7回にわけて収穫する。2021年は1週間かけた。1.8haのロマネ・コンティは1日で収穫を終えるのだが、アルノーの辞書に「妥協」という文字はない。
ロルモーは7区画をムルソーAOC、クロ・デ・ザンブル(Clos des Ambres)、ラ・セーヴ・デュ・クロ(La Seve du Clos)に分けて仕込む。肥沃な区画はACブルゴーニュにすることもある。セーヴ・デュ・クロはフィロキセラ後に植え替えた樹で樹齢140年。ブルゴーニュで最も樹齢の高い古樹だという。
畝ごとに摘むそのきめ細かさがテロワールを正確に映し出す。アルノーが表現するテロワールとは、アン・ロルモーの区画ではなく、3列や20列の畝の個性なのだ。
「ドメーヌ・アルノー・アント ブルゴーニュ・シャルドネ 2021」(Domaine Arnaud Ente Bourgogne Chardonnay 2021)は熟したレモンの皮、桃、濡れた石、シャープな酸、サテンのテクスチャー、液体の粒子が細かい。純粋で洗練されている。塩気を帯びた余韻は長い。熟成はワイングローブ20%、フードル80%。6万6000円。92点。
「ドメーヌ・アルノー・アント ムルソー・ヴィラージュ 2021」(Domaine Arnaud Ente Meursault Village 2021)はリンゴの花、白い果実、張りがあり、ほのかにエキゾチックのタッチ。繊細で鋭い酸味、ヴェルベッティで岩清水のように透明。明確な輪郭がありしっかりしたグリップ。フィニッシュにわずかな還元のニュアンス。グラスに注いで60分経たら豊かなコクが出て、繊細さと正確さが増していた。驚いた。ドメーヌで短時間で試飲するのではつかめない深みが露わになった。熟成はワイングローブとフードルが半々。13%。8万9000円。93点。
「ドメーヌ・アルノー・アント ヴォルネイ・プルミエクリュ レ・サントノ・デュ・ミリュー 2021」(Domaine Arnaud Ente Volnay 1er Cru Les Santenots-du-Milieu 2021)はスミレ、クランベリー、ラズベリー、バラの花弁、フローラルでデリケート。繊細な酸とジューシーな果実味が調和している。研ぎ澄まされたフィニッシュ。13.5%。13万2000円。91点。
アルノーの弟ブノワはピュリニー・モンラッシェに6haを所有するドメーヌを営んでいる。栽培の取り組みはアルノーと同じ手法を取り入れ、有機認証を2016年に取得した。醸造はすべてワイングローブではなく、フードルを併用している。兄弟は情報交換している。アルノーが繊細でミネラル感に富むのに対し、ブノワは丸みがあり果実味が前面に出ている。
「ドメーヌ・ブノワ・アント ブルゴーニュ・アリゴテ アンティクトーヌ 2023」(Domaine Benoit Ente Bourgogne Aligote Antichtone 2023)はレモンの皮、柑橘、サテンのテクスチャー、ち密で、酸と果実がきれいに調和している。上質なシャルドネを思わせる丸みの奥に塩気を帯びたミネラル感を秘めている。1万3000円。90点。
「ドメーヌ・ブノワ・アント ブルゴーニュ・シャルドネ 2023」(Domaine Benoit Ente Bourgogne Chardonnay 2023)はピュリニー・モンラッシェ的な突き放すような鋭さがあり、白い花、白桃、砕いたチョーク、キレのいい酸味。2023らしいふくよかな果実味。ミッドパレットの厚みがあり、焦点のあったフィニッシュ。1万6800円。91点。
人生で一度は飲むべきワイン
両方のドメーヌのクルティエはジュール・デジュルネのファビアン・デュペレイ(Fabien Duperray)が務め、フランスはピエールの弟でルグランのバイヤーを務めるルイを通じて、ルグランに卸している。
アルノー夫妻もピエールも取り引きには全く関心がなく、いつも畑かカーヴにいる。ルイも収穫期やブレンドには戻る。ビジネスはファビアンに任せている。市場を広げようと考えていて、日本にワインが入ることになった。そのおかげで2年連続でドメーヌを訪問して、2021と2022の全ラインアップを試飲できた。
アルノー・アントの生産量は冷涼だった2011年が1万本、2022年が1万4000本、豊作だった2023年が1万8000本。2つ星、3つ星レストランか高級ワインショップでしか買えないため、世界が争奪して、カルト化している。5年前はプレミアム値段の米国かフランスのワインしか飲めなかったのが、正規輸入元がついたのは朗報だ。高価だが人生で一度はじっくりと向き合って飲まねばならないワインだ。
輸入元はWINE TO STYLE。
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