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シャトー・レ・カルム・オー・ブリオンはボルドーの枠を超えて、一気に世界に広がった。いち早く目を付けたのはヴィノスのアントニオ・ガッローニやワイン・アドヴォケイトのウィリアム・ケリーら、ボルドーだけでなく、世界の多彩な産地を知る評論家だった。
全房発酵がもたらすフレッシュ感やうまみを帯びた風味、優しいインフュージョンで表現するなめらかなタンニンやしなやかなテクスチャー……ほかの産地のワインで広がっている現代的なワインが伝統的な産地ボルドーに登場したことに彼らは気づいたのだ。
ロバート・パーカーとミシェル・ロランが力を持っていた2010年代までのボルドーは凝縮感と力強さを前面に出したワインが優勢だったが、醸造家も世代交替してワイン造りが変わり、消費者の求める味わいも変わってきている。世界的なトレンドを知る評論家がそこに気づいた。日本市場にもようやくワインが出回るようになった。うれしい限りだ。
シャトー・オーブリオンからわずか5分のレ・カルム・オー・ブリオン。住宅に囲まれたアーバン・ヴィンヤードだ。クロの中で馬が畑を耕している。ジェネラル・マネジャー兼醸造責任者のギョーム・プーティエに会うのも4回目。いつも陽気ではつらつとしている。会えばだれもが好きになる男だ。
全房発酵、インフュージョン、コ・フェルメンテーション
ギョームのバックグラウンドは幅広い。ボルドーではシュヴァル・ブランやラフルール、ローヌではゴノン(サン・ジョセフ)、シャーヴ、シャプティエたちから影響を受けている。約10年をかけて現在のスタイルを築いた。
全房発酵はブルゴーニュ品種、ローヌ品種の造り手は導入しているが、ボルドーの赤ワインでは珍しい。「アルコール度を下げて、果皮や花のアロマを表現し、ほろ苦さや塩気を保つ複雑な味わいになる。飲みごたえがある」と、導入した理由を語る。比率は40-50%。DRCと同じく、最初はベジタルなニュアンスがあるが、熟成させて開くと官能的な風味に発展する。
抽出はインフュージョン(浸出)。果帽(果皮などの個体成分)を乾燥させない抽出には、パンチング・ダウン(ピジャージュ)とポンピング・オーヴァー(ルモンタージュ)があるが、ここではサブマージド・キャップ・マセレーションを行っている。発酵槽の果汁の中程度の高さに網状の装置を設定し、果房が浮かびあがらず、湿ったままの状態で保てる。
カリフォルニアのリッジやバローロのロアーニャなどで長らく知られる手法だ。果皮と果汁の穏やかな接触により色素と香りが自然ににじみだして、液体に調和して広がる。足や櫂(かい)を使うパンチング・ダウンとも、果汁を下からくみ上げてかけ回すポンピング・オーヴァーとも違う。果汁にストレスを与えず、果皮の成分を引き出す。
ギョームはこの優しい抽出をインフュージョンと呼んでいる。フランスのレストランやカフェでは、ハーブティーを飲む際に、フランス語で「アンフュージョン」と注文する。お湯に浸して軽やかな香りと優しい味わいが楽しめる。似たようなイメージと言えるだろうか。
一方で、グランヴァンはカベルネ・フランの比率が高く、多い年ほぼ半分をブレンドしている。シャトーから離れると石灰岩土壌が多いからだ。優雅でドライハーブの香り。カベルネ・ソーヴィニヨン、メルローとコ・フェルメンテーション(共同発酵)して調和させている。これが全房発酵と相まって、繊細で複雑な特徴的な風味を生んでいる。密植度はヘクタールあたり1万本。
サンテミリオンのラフルールやシュヴァル・ブランもブーシェ(カベルネ・フランの古いクローン)をブレンドするが、コ・フェルメンテーションまではしない。
2025年は乾燥して温かったが、収穫期は涼しかった。「パラドックス」のヴィンテージだという。
「シャトー・レ・カルム・オー・ブリオン 2025」(Chateau Les Carmes Haut-Brion 2025)はカベルネ・フラン40% 、カベルネ・ソーヴィニヨン34% 、メルロー26%。ダークチェリー、プラム、カシス、ブラッドオレンジ、スミレ、サテンのテクスチャー、クリーミィなタンニン、生き生きとした酸。しっかりした骨格、肉厚だが軽やかで洗練されている。エキスの甘み、ドライハーブ、アニス、オレンジの皮など全房発酵の香りが表れ、繊細で透明感に包まれる。コート・ロティのジャメとDRCのエシェゾーの中間を行く。97点。
「ル・C・デ・カルム・オー・ブリオン 2025」(Le C des Carmes Haut-Brion 2025)は全房発酵30%。ペサック・レオニャンのオー・バイィとスミス・オー・ラフィットの中間に位置する畑から。フローラルでスミレ、ラズベリー、ザクロ、フェンネル、カシスの葉、カシミアのタンニン、引き締まった味わいで、ジューシーな果実味。すべるように飲みやすく、活力のあるシルキーなフィニッシュ。92点。
「俺の使命はボトルをからにさせることだ。俺のことを知りたかったらワインを飲んでくれ」
ポップロックとランドローバーが趣味
人柄を知るには音楽と車の趣味を探るのもいい。尋ねたらiPhoneを鳴らしてくれた。いきなり「スーパートランプ」、続いて「ドリーマーズ」、ピアニストの「リオピー」と続いた。重すぎないポップロック系が好みのようだ。
車はランドローバーの「ディフェンダー」。サファリを踏破できるようながっしりしたオフローダーだ。ラグビー選手だった男には似合う。
音楽と車の志向は一致しないが、骨格と熟成力がありながら、重すぎずエレガントなワインの個性に同調しているとも言える。常識破りの男が造るレ・カルム・オー・ブリオン。人気が出て高値になる前に飲んでほしい。
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