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ミシュランは絶対か?日本人の星付き料理人が増えるわけ 

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 フランス料理界は大きな変化の時期を迎えている。
 2018年2月5日、パリ郊外で行われた毎年恒例のミシュラン・ガイドのセレモニー。始まりは2週間前に天に召された、偉大なる料理人ポール・ボキューズの功績を讃えるVTRだった。53年もの間、3つ星を維持しつづけた巨星の死は、一つの時代にピリオドを打った。ヌーヴェル・キュイジーヌの旗手として、60年代からフランス料理界を牽引し、フランス料理の価値を世界中へ広め、フランス国内の子供たちですら、料理人の理想像として彼を見る。昨年には、同じヌーヴェル・キュイジーヌの代表アラン・サンドランスも亡くなり、代替わりが相次いでいる。
 ここ数年、ミシュラン・ガイドの評価するレストランは、内装(Table)よりも料理(Cuisine)を重視しているように思える。
 ミシュラン・ディレクターのマイケル・エリスは、今年のインタビューで次のように述べた。
「ガイドの評価に対して5つの指標があります。まず最初に素材の品質。次に火入れについて、完璧なキュイッソンであるか(味わいの調和とバランス)。シェフの個性。料理の季節感。そして最後にコストパフォーマンス」。
 特に素材については繰り返して語り、「すべての料理は素材から始まる。フランスは、豊富な素材に恵まれた国」と強調する。それは、自然の素材を重視するサヴォワ地方の料理人マルク・ヴェイラが、3つ星を取り戻したことが象徴している。自ら香草を採り、酪農を営む。後身の育成にも精力を注ぐなど、唯一無二の個性を持つ彼の料理のスタイルは、現在に求められる料理人像である。インパクトのある濃厚さではなく、ヘルシーで軽やかな料理。数十種類の素材から構成されていた昔の料理に比べて、近年の料理は厳選された素材の少ないものが増えて、簡素化が進む傾向にある。
 料理と呼応するように、昨今、レストランで客層が求めるワインは、ボルドーではなくブルゴーニュである。それからローヌ、ロワール。料理にあったワインを選ぶならば、例えばシャトー・ド・ボーカステル・オマージュ・ア・ジャック・ペランよりも、シャトー・ライヤスの方が、またはクリュッグよりもサロンの方が現在のスタイルに合っている。
 料理のトレンドの変化と相まって、フランスにおける日本人料理人の躍進が目立つ。すでに20数人の星付き日本人シェフがいる中、今年はさらに5人の日本人シェフが1つ星を獲得した。2つ星シェフに昇格した日本人も2人と、日本人シェフの勢いは衰える気配がない。
 なぜ日本人シェフの店はこれほどの成功をおさめているのだろうか?
 技術云々以前に、モチベーションの上で、フランス人と日本人には違いがある。一緒に働いていて、仕事が出来ると思うフランス人料理人があまりにも少ない。職場では仕事をこなすものの、休日に食べ歩きをしたり、家で料理を作ったりしないフランス人。店の賄いを食べずに、近くのファーストフードですますフランス人料理人にびっくりしたことがある。毎日フルで働き、休日に他のレストランや肉屋でアルバイトしたり、レストランを食べ歩きしたりする日本人との間に、職業意識に対して大きな隔たりを感じる。3つ星の店でないと、モチベーションの高いフランス人はほとんどいない。

 多くの日本人シェフのレストランは、「おまかせコース」のみを出している店が多い。いわゆる、前菜やメインコース、デザートを一品一品選ぶフランスの古典的なア・ラ・カルトのメニューを廃し、シェフが厳選した一種類のコースのみを提供する方式。店において選択肢がないか、もしくは少ないものの、調理場側からしてみれば、素材のコストダウン、無駄な準備を避け、より旬な食材の厳選が可能な料理を出す事ができる。
 そして日本人シェフは、小さなレストランを経営することが多い。100席ほどが普通だった昔のレストランに対し、20席程度なので、一つ一つのテーブルごとに出されるお皿の完成度は高くなる。ミシュランの調査員は覆面で食べにくるが、もちろん、小さなレストランの方が有利である。さらにカウンター形式やテーブルクロスのない店も、星をとるようになるなど、やはり時代は変わって来ている。

 星付きレストランが必ず美味しいのか?
 そうきかれると疑問もある。2つ星、3つ星レストランであっても、出された料理のキュイッソンに首をかしげる事はしばしば。ワインリストの値段設定も詐欺としか思えないときがある。ミシュラン・ガイドは決して絶対的ではなく、時代のレファレンスである。そして現在、1つ星レストランで働いている身として、我々が常に心がけているのは、ミシュランの調査員に神経を注ぐのではなく、個々のお客様が満足して店を出られるように気を配るということである。
 何度も通ってくれる、アルザスのドメーヌ・ポール・ブランクのフィリップ・ブランクが、とても大切なことを言ってくれた。
「ガイドや、ネットの評価はただの一例。君のレストランが、本当にお客様にとって満足されているか判断する為の基準は、たった一つだけだよ。それはお客様にとって、何度も再訪したいと思わせる店なのかということ。良い店だから、また来たいと思うし、良くなかったら二度と来ない」
パリの1つ星「Neige d'été」
今年のミシュラン・ガイド。「フランスにやってくる旅行客の約1/3の美食のため」とされ、国の経済効果にも影響を与えている
レストラン、ポール・ボキューズ。1960年代にタイムスリップしたかのような内装、料理。本当のフランス料理とは何かということを理解できる偉大なる名店

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