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DRCで生まれ育った男、ジャン・ルイ・ライヤールのチャーミングなワイン(ブルゴーニュ2018)

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 DRCやアンリ・ジャイエとの関連や影響を枕詞に紹介されているブルゴーニュのドメーヌは信用できない。売らんかなの誇張を感じる。ドミニク・ラフォンやルイ・ミシェル・リジェ・ベレール(ドメーヌ・デュ・コント・リジェ・ベレール)が、ジャイエから学んだ話は直接に聞いたが、彼らはそれを売り文句にはしない。


 そんなわけで、ジャン・ルイ・ライヤールも最初は違和感を感じたのだが、それは思い過ごしだった。ジャン・ルイについては、「DRCで生まれ育った」という表現が誇張ではない。両親はDRCで出会い、昔のDRCの醸造所の裏手の家に住んで育った。DRCを遊び場にする子供時代をおくったのだ。


 ヴォーヌ・ロマネのRue des Grands Crusにドメーヌを構えている。斜め向いはDRCのカーヴ、向いはグロ・フレール・エ・スール、数軒先はメオ・カミュゼ。ブルゴーニュの銀座四丁目のような場所だ。グーグルを信用したのが間違いで、D974をはさんで反対の東側の自宅付近をうろうろし、大幅に遅刻してしまった。ヴォーヌ・ロマネに着いたら、ドメーヌの前にだれかが立っている。ジャン・ルイだった。午前9時の気温10度の寒い街頭で30分も待ってくれるとは。温かい男である。


 ジャン・ルイの両親はDRCで40年近く働き、栽培、醸造、出荷を担当していた。ロマネ・コンティの収穫はもちろん、畑の耕作も行っていた。1946年に醸造長と栽培長となったアンドレ・ノブレの下で働き始めた。


 「両親は1952年に馬で耕作をしていた。50年代に馬の耕作は消えていき、トラクターにとってかわられた。2000年代に入って、再び馬で耕すようになった。2度も馬の耕作を経験したんだ」


 まさにブルゴーニュの歴史の生き証人だったのだ。ジャン・ルイの母は、ニュイ・サン・ジョルジュで引退後の余生をおくっている。


 両親はネゴスのトマ・モワラールにバルクでワインを売っていたが、1989年に戻ってきたジャン・ルイが自家元詰を本格化させた。彼はボーヌの農業專門教育センターで、栽培・醸造の教師を務めていた。モンテリー・ドゥエレ・ポルシュレの醸造長カタルディーナ・リポら、生徒は数え切れないほどいる。理論だけでなく、トラクターの動かし方など現場のノウハウも教えて、多くの造り手に影響を与えた。


 生徒の1人ヴァンサン・パンダヴォワンヌが栽培担当を務める。ヴァンサンは、オスピス・ド・ボーヌのコート・ド・ニュイ地区のマジ・シャンベルタン、エシェゾー、クロ・ド・ラ・ロッシュの3つの畑の栽培担当も務めている。強力なチームだ。


 人の手をなるべくいれないミニマルで伝統的な醸造手法をとる。栽培はビオロジックで、醸造はすべてが手作業。ポンプを使わず、ゆっくりと時間をかけて行う。最初の1、2日は足でピジャージュを行い、発酵の中間でルモンタージュを行う。亜硫酸は控えめで、澱引きは瓶詰め前まで行わないため、ワインは二酸化炭素に守られている。樽熟は13か月間。


 グラスウールの発酵槽で、野生酵母により、ヴィラージュ以外は20-30%ほど全房発酵を行うが、ワインに茎のニュアンスはほとんどない。淡い色調、しなやかなテクスチャー、優しい香り高さを表現している。


 「醸造家はワインをいじりすぎる。いいブドウがとれれば、あとの仕事は簡単だ」


 「確かに。話を聞いていると、DRCのワイン造りと共通する要素が多いですね」


 「DRCの真似をしているのではない。DRCが我々と同じように造っているのさ(笑)」


 白1種、赤4種の計5種を造る。ブルゴーニュACの白と赤は自宅に近いブルゴーニュACの区画から。ニュイ・サン・ジョルジュはLes Saint-JuliensとLes Fleurieresのブレンド。ヴォーヌ・ロマネはLes Mezieres、Aux Champs Perdric、Aux Raviollesの3区画のブレンド。ヴォーヌ・ロマネ・プルミエクリュ・レ・ボーモンは冷風が吹き込むLes Beaux-Monts Haut。計1.5ha。6000-1万本生産のミクロ・ドメーヌだ。


 瓶詰めを間近に控えた2018とまもなく市場に出る2017を試飲した。2018は暑い夏だったため、ピジャージュをせず、煎じるように優しく抽出した。マセラシオン(醸し)期間は2週間弱。


 「ドメーヌ・ジャン・ルイ・ライヤール ブルゴーニュ ラ・パキエ 2018」(Domaine Jean-Louis Raillard Bourgogne“Les Paquiers” 2018)は淡いルビー、ツヤのある果実、柔らかくて、シームレス。淡白ではあるが、アルコール度はきちんと確保され、上品なフィニッシュ。87点。


 「ドメーヌ・ジャン・ルイ・ライヤール ニュイ・サン・ジョルジュ 2018」(Domaine Jean-Louis Raillard Nuits-Saint-Georges 2018)は繊細で、控えめだがこなれたタンニン、コアにはしっかりと果実がある。優しい抽出だが、ニュイ・サン・ジョルジュらしい骨太な構造を備えている。89点。


 「ドメーヌ・ジャン・ルイ・ライヤール ヴォーヌ・ロマネ 2018」(Domaine Jean-Louis Raillard Vosne-Romanee 2018)はストロベリー、野いちご、しなやかなタンニン、果実の広がりとふくらみがある。透明感に包まれたフィニッシュ。熟度が高く、どっしりしたワインの多い2018年にあって、優美なスタイルを崩していない。90点。


 「ドメーヌ・ジャン・ルイ・ライヤール ヴォーヌ・ロマネ・プルミエクリュ レ・ボーモン 2018」(Domaine Jean-Louis Raillard Vosne-Romanee 1er Cru Les Beaux-Monts 2018)はラズベリー、レッドチェリー、フレッシュなハーブ、リニアなテクスチャー。ピュアでナチュラル、コンブに近いBeaux-Monts Hautらしい冷涼感と緊張感をたたえている。91点。


 暑い2018に続いて、瓶詰めされた2017を試飲した。


 「ドメーヌ・ジャン・ルイ・ライヤール ブルゴーニュ ラ・パキエ 2017」(Domaine Jean-Louis Raillard Bourgogne“Les Paquiers”2017)は茎っぽいタッチがやや目立つが、酸素に触れると統合される。甘やかなタンニンとほろ苦みのバランスがとれていて、チャーミング。うまみの残るフィニッシュ。88点。


 「ドメーヌ・ジャン・ルイ・ライヤール ニュイ・サン・ジョルジュ 2017」(Domaine Jean-Louis Raillard Nuits-Saint-Georges 2017)はやや厳格さを伴う骨太なストラクチャー、タンニンがまだ落ち着かないが、果実がしっかりとあり、バランスは優れている。スパイシーで、ほろ苦みがアクセントになったフィニッシュ。89点。


 「ドメーヌ・ジャン・ルイ・ライヤール ヴォーヌ・ロマネ 2017」(Domaine Jean-Louis Raillard Vosne-Romanee 2017)はフローラルで、スミレ、レッドベリー、生き生きした果実、すがすがしい酸、バランスがとれていてチャーミング。フィニッシュはリニアで正確。90点。


 「ドメーヌ・ジャン・ルイ・ライヤール ヴォーヌ・ロマネ・プルミエクリュ レ・ボーモン 2017」(Domaine Jean-Louis Raillard Vosne-Romanee 1er Cru Les Beaux-Monts 2017)はフレッシュ感が躍動し、ピュアな果実のうまみが広がる。レッドチェリー、シナモン、酸、タンニン、果実がきれいな三角形を描いている。上品なうまみの乗った味わいが後を引く。92点。


 ジャン・ルイは最後にカーヴの奥から、木箱に入った古いDRCのボトルを持ってきて見せてくれた。1本はラ・ターシュ1956。両親が働き始めた時期のワインだ。もう1本は両親の名前をラベルに入れたリシュブール1991のマグナム。両親の働きぶりに捧げたプライベートボトルだ。DRCとの関係の深さがうかがえた。

 

 ワインの参考上代は、ブルゴーニュ・レ・パキエの3700円に始まり、ヴォーヌ・ロマネ7200円、ヴォーヌ・ロマネ プリミエ・クリュ・レ・ボー・モンで1万1400円と、ヴォーヌ・ロマネ・ベースにしては良心的な価格となっている。

 

 輸出は日本が最も多く、残りはイタリア、ベルギー、スイス、中国、香港。日本で飲めるのはありがたい。日本人がNZワイパラで始めるワイナリーのコンサルタントを務めるから、さらに日本との関係が深まりそうだ。。


 輸入元はVIVIT。

カーヴはヴォーヌ・ロマネの中心にある
栽培担当ヴァンサン・パンダヴォワンヌと
両親が働き始めた時期にDRCからもらったボトル。署名はオベール・ド・ヴィレーヌの父アンリ・ド・ヴィレーヌ
両親の名前の入ったリシュブール1991のマグナム

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